4人の編集長が語る「ネット化が進むビジネス誌の現状、そして明日は?」(3/4 ページ)

» 2009年03月01日 00時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

Webの効果的な活用法とは

――Webと紙で記事の作り方は変わってくるのでしょうか?

東洋経済オンライン

丸山 他社もそうだと思うのですが、東洋経済の場合はWebをどう使っていくかをまだ模索しているような段階なので、方針の違いを話せるようなレベルではありません。しかしリソースが通信社というわけではないので、新聞的な速報記事ではなく、あるテーマを設定して、深掘りして読んでいただくというものになるとは思います。

 雑誌だとある読者ターゲットを決めて、作って出してしまえば後は何もできないのですが、Webでは記事を出した後でもフォローすることができます。そうしたWebの良さを今までの雑誌の作り方に加えて、特集の息を長く続かせるというやり方をしていくことになるのかなと思います。

中嶋 雑誌を作る時は、どうすればお客さまが書店で手にとってくださるかを一番に考えて特集を組み、目次を作り……という順序ですが、Webでは「どうやれば検索エンジンに引っかかるか」とか「リンクを張ってもらえるか」を意識します。

 そうすると、タイトルのつけ方も変わってきます。雑誌がインパクトだとすると、Webはキーワード。ブログからリンクをはってもらえれば、そのブログを読んでいる人が来てくれます。そういうダイナミズムは紙にはない武器ですよね。

 また、プレジデントロイターではトップページで3つの注目記事を大きく載せているのですが、ここを頻繁に入れ替えています。このあたりはWebならではの柔軟性です。

麻生 先ほどお伝えしたように、紙媒体であるビジネス誌は今、大特集主義になっています。要するに毎号毎号違うテーマを、紙面のかなりの部分を割いて取り上げているわけです。また、そもそもページ数の限定もあり、何か1つのテーマを毎号毎号恒常的に取り上げるという形にはなりにくい。

 それに対して、Webは、大特集主義やページ数のリミットにとらわれる必要がないので、さまざまなテーマを同時進行で恒常的に取り上げやすいという特性があります。問題はコンテンツの制作能力ですが、幸い当社には週刊誌の編集部にたくさんの産業別担当記者がいますので、まさにそれをやりきる潜在能力があるわけです。

 実際、昨年来、週刊誌の記者が、紙ではなく、ダイヤモンド・オンライン向けだけに記事を書いたり、連載を持ったりするケースが増えています。また、週刊誌で掲載した特集の続きを、Webで書くという好循環も見られ始めています。例えば、「アフリカ争奪戦」などはその好例でした。これは、そもそも週刊誌の特集でしたが、担当した複数の記者がその後も「このテーマを追いかけたい」とのことで、ダイヤモンド・オンラインでしばらく連載を持ってもらいました。

 今後は、産業向けの特集などでもこうしたことができるといいなと思っています。 雑誌で自動車の特集をやったとしても、次の号ではもうやらないわけです。しかし、Webだとその後も自動車の記事を載せ続けることが可能なのです。そうすると、非常に効率的に読者を囲い込めると思います。

 そもそも多くの記者がある産業に毎日張り付いて、夜討ち朝駆けもしてくれているわけですから、その情報を発信する先としてWebを活用してもらいたいと思っています。ダイヤモンド・オンラインでは月に250本ぐらい記事を出しているのですが、転載やWeb向けの書き下ろしを含めた『週刊ダイヤモンド』編集部発のものは、ざっと2〜3割ぐらいです。むろん、週刊誌の編集部の記者のミッションは、週刊誌上で自分の力を最大限発揮することですが、そのためにも補完し合うコンテンツの出し先としてWebをどんどん利用してもらいたいと思っています。

吉岡 紙の編集をやっていた時に、「こんなに面白いインタビューなのに2ページにしかできないのか」という経験がありました。場の雰囲気を伝えるようなロングインタビューはWebに来てやってみたかったものなので、それに今積極的に取り組んでいます。

 また、「悪人を倒せば世界が平和になるという映画は作らない――宮崎駿監督、映画哲学を語る」や「ホンダはなぜF1から撤退するのか?――社長会見を(ほぼ)完全収録」のように記者会見のQ&Aまで含めた「ほぼ完全収録シリーズ」というおそらく紙ではできないようなことをやってるのですが、引用してもらえる、ソースとして使ってもらえるという意味ではWebらしいコンテンツかなと思っています。

Webでどうやってもうけるのか

――Webのビジネスの難しさは?

吉岡 誠も含め、現在Webで展開しているビジネス媒体はほとんどすべて「広告モデル」ですよね。読者は無料でコンテンツを読むことができ、企業からバナーやタイアップ記事などの広告費を得ることで成り立っている。

 アイティメディアは、もともと専門誌モデルのニュースサイトを作っていたんですね。業界全体のプロモーションのために業界の人たちが雑誌に広告を出すという形で専門誌モデルは成り立ってきたのですが、誠の場合は「ビジネス誌です」とか「総合誌です」と言ってしまうと、「業界ってどこ?」という話になって、従来のモデルが成り立たなくなる。「専門誌モデル以外でWebのビジネスモデルってどうしたらいいんだろう」と悩んでいます。

 専門誌モデルでは「ページビューが伸びれば、広告も付いてくる」というのが大前提だったのですが、誠ではそれが成立しなくなっていて、ページビューは伸びていても広告は入らない。「何でですか?」と聞くと、「誰が読んでいるのか分からないですから」と言われてしまう。「みんなが読んでいるというのが強みに転じにくい」というのがWebの難しいところだと思っています。

麻生 確かにその通りですね。ダイヤモンド社の場合はブルームバーグやロイターや東洋経済さんのような大きなデータベースビジネスがないので、広告主体のビジネスになっています。ただ、「それだけでいいのか」とは考えます。ウォールストリートジャーナルの有料モデルについてはいろいろと言われていますが、広告に加えて何らかの収益を得る方法を探さないといけません。それは、不況下では、どのメディアも感じていることではないでしょうか。

 有料化と言っても、もしかすると読者から購読料をいただく以外の方法もあるかもしれません。広い意味で、購読料モデルと広告モデルは融合するかもしれません。日経BPさんがやっているターゲットをはっきりしたメルマガのビジネスは、ある意味お客さんと企業とをつないでいるわけです。むろん、あれは紛れもなく広告なのですが、「たくさんの読者を抱えているから広告を出してください」というモデルではありません。「企業と関連性のある読者をつないであげますよ」というモデルです。今ここでは話せませんが、ビジネスメディアには、その先に、新しいマネタイズのヒントが隠されている気がします。

丸山 東洋経済オンラインも、記事を読んでいただいた方から直接購読料をもらうというモデルはとりえていない状況です。データベースを提供するビジネスはそれなりの収益になっていますが、それは少し売り方が違います。エンドユーザーが対象ではなく、卸売りという形になりますから。

 『週刊東洋経済』もPDF化して自社サイトで販売していますが、たくさん売れているというレベルではありません。ただ、広告以外の収益源を見つけることはやらないといけないとは思いますが、何かしらの手法でやれるのではないかとは考えています。

中嶋 プレジデントロイターは、プロフィルがいい(購買力のある読者が多い)ので、ページビュー単価はポータルサイトなどに比べて高めに設定しています。新しい試みとしては、広告のクリック数に応じてCO2排出権を購入する企画をプレジデント本誌と連動して行いました。こうしたクロスメディアの企画へは、広告主の関心も高いです。

 それから、2月に発表があったのですが、プレジデントロイター、ダイヤモンド・オンライン、東洋経済オンラインの3サイトも含め、7社8サイトが参加するアドネットワーク、「ビジネスプレミアムネットワーク」が4月に始動することになりました。複数の専門メディアサイトの広告枠を合わせてネットワーク化し、1本の広告として販売します。月間最大1億ページビュー、広告主にとっては、3000万人のユーザーにリーチできるのがメリットです。

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