『らき☆すた』『true tears』に学ぶ、アニメツーリズムの可能性(1/6 ページ)

» 2009年03月23日 14時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 ジャパン・ロケーション・マーケットは3月18日、東京ビッグサイトで行われた東京国際アニメフェア2009でシンポジウム「アニメにおけるロケツーリズムの可能性〜聖地巡礼と観光資源〜」を開催した。

 アニメを利用した町おこしは鳥取県境港市の「鬼太郎列車」などのように以前からあったが、近年ではネットを活用して盛り上げる例が増えている。シンポジウムでは鷲宮町商工会議所(鷲宮町商工会)の坂田圧巳(あつみ)氏や北海道大学観光学高等研究センターの山村高淑准教授が『らき☆すた』による埼玉県鷲宮町での町おこしの事例、ピーエーワークスの菊池宣広専務が『true tears』による富山県南砺(なんと)市での町おこしの事例、ファンワークスの高山晃社長が東京都杉並区のキャラクター「なみすけ」の展開や地方のクリエイターを活用するメリットなどについて語った。

初詣客が2年間で13万人から42万人まで増えた

 シンポジウムではまず、鷲宮町商工会の坂田圧巳氏が『らき☆すた』による埼玉県鷲宮町の事例を紹介した。『らき☆すた』はゲーム雑誌『コンプティーク』に連載されている4コママンガが原作で、アニメは2007年4月から9月にかけて放送された。アニメを機にブームとなったことで、鷲宮神社への初詣客は13万人(2007年)から42万人(2009年)まで増加した。

鷲宮町商工会議所の坂田圧巳氏。2007年12月〜2008年5月までに4170万円の経済効果を上げたという

坂田 観光振興という目的として私たちはやってきたつもりはないのですが、結果的に観光振興につながったということで、本日このような席をいただきました。

 まずは鷲宮が『らき☆すた』の聖地となる流れをご紹介します。2007年4月から『らき☆すた』がテレビ放映されたのですが、その間は私、そして鷲宮の住民は、そういったアニメがあること自体まったく知りませんでした。そして2007年7月、『らき☆すた』の版権元である角川書店さんの雑誌『月刊ニュータイプ』で「『らき☆すた』の舞台が鷲宮である」と紹介され、これがきっかけで『らき☆すた』ファンの聖地巡礼が一般化しました。

鷲宮町おこし年表(クリックで2009年1月まで表示、出典:鷲宮町商工会)

 すると7月25日、「(『らき☆すた』の)オタクが(鷲宮神社に)殺到していることで、地元に治安の問題が発生している」という(産経新聞の)記事がYahoo!ニュースで取り上げられました。実際はそんなに不安になったわけでもなく、この時はまだ地域の人も商店街の人も「オタクの人が来てるんだよ」ということさえ気付いていませんでした。それなのに、こうした悪いイメージの記事が出てしまったのです。しかしこの記事が元になって、一般の人が(興味を持って)鷲宮に来るようになりました。そこが、(本格的な観光振興の)始まりです。

 アニメでは鷲宮神社と(鷲宮神社前にある)大酉茶屋が使われました(下写真)。

実際の風景とアニメのカット

 聖地巡礼ということで鷲宮に来た人が何をするのかというと、「来たよ」という軌跡を残すために鷲宮神社の絵馬に絵を描いて奉納するのです。ほとんどの絵馬に絵が描いてあります。お正月前に一度、鷲宮神社さんの方でお焚き上げをしたのですが、今現在も下写真に近い状況になっています。絵馬は1枚1000円なので神社さん……ではなく神様もうれしいんだろうなと思います。

鷲宮神社の絵馬

 ニュースが出て騒ぎになった後の9月ころ、鷲宮商工会から角川書店さんに連絡をとることになります。ダメ元で「ちょっと電話しよっか」というノリで角川書店さんに電話させていただいたのですが、意外や意外に非常に良い対応をいただいて、「企画書を出してください」となりました。いろいろ企画書を出した後に(角川書店)本社にお呼ばれして、「どうです、イベントをやってみませんか」という話と、グッズに関する話が進んで、12月に初めてのイベントとストラップの販売を行いました

 この時の非常にすごい反響から、地域の商店が『らき☆すた』ファンを意識し始めます。「すごい(人気ある)んだね」ということと、「(『らき☆すた』ファンは)礼儀正しいんだね」ということを感じたようです。イベントは商店に全然連絡せずに、鷲宮商工会が突っ走って開催してしまったのですが、結果的にはそれが良かったのかなと(思います)。(一部の店舗ではなく商工会として協力したので、すべての)商店が参加しやすくなりました。

 そして2008年の1月、鷲宮神社への参拝客数が驚異的に伸びて30万人(前年比17万人増)になりました。これが新聞やテレビなどで報道されて、聖地巡礼という行為を一般の人も地域の人も知るようになった次第です。2008年4月には、角川書店さんに協力していただいて、新しい絵を描いていただいて、柊一家という(『らき☆すた』の)キャラクターの特別住民票を発行しました。これは鷲宮でしか買えません、買うといっていいのか分かりませんが1万枚を発行しています。特別住民票を発行すると同時に、声優イベントと『らき☆すた』にちなんだメニューの飲食店スタンプラリーをやりました。ここで商店と『らき☆すた』ファンとの交流が始まりました。

特別住民票(左)、飲食店スタンプラリー資料。普通の食べ物にアニメを知っていないと付けられないようなメニュー名を付けた。1周12店舗で、半年間で640人ほどが達成した(右)

 『らき☆すた』ファンと地域商店が仲良くなると、「(『らき☆すた』の)みこしを出さないか」という話が持ち上がり、2008年9月に(『らき☆すた』)みこしが出ました。みこしの担ぎ手を募集すると、募集開始から3日間で120〜130人くらいの申し込みがありました。地域のお祭りに『らき☆すた』ファンの人が来て、『らき☆すた』のみこしで盛り上がるということは今までにないことだと思います。

『らき☆すた』みこし

 2009年1月には鷲宮神社への参拝客数が42万人(前年比12万人増)と、県内2位になりました。これは『らき☆すた』ファンの方だけが十何万人増えたということではなく、鷲宮神社が『らき☆すた』との関連で取り上げられると、必ず「関東最古の大社」という枕詞が付いてくるので、一般の人への周知も広まって参拝客が増えたという流れです。

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