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» 2009年03月23日 14時00分 公開

『らき☆すた』『true tears』に学ぶ、アニメツーリズムの可能性 (3/6)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

鷲宮が成功した理由とは?

 坂田氏に続いて北海道大学観光学高等研究センターの山村高淑准教授が、『らき☆すた』による町おこしの事例を学術的な観点から分析した。

北海道大学観光学高等研究センターの山村高淑准教授。「萌えジャージはローカルルールで鷲宮町商工会の制服」(山村氏)

山村 私の方からは「ツーリズムや町おこしといった面で、鷲宮の事例はどんな意味があったのか」を半ば客観的に説明します。「半ば」と申しましたが、実はかなりの入れ込みがありまして、ここでカミングアウトするのも何なのですが、(私は)元々アニメファンで、鷲宮でやった声優さんのイベントに1ファンとして参加していたのです。「こんな面白いイベントを何でできるんだろう」と、(イベントを開催する上で中心的な役割を果たした鷲宮町商工会の)坂田さんと松本さんの2人にインタビューを申し込みました。

 「何かコツはあるのですか」と聞くと、ひとこと「ノリです!」と言うんですね。もっと重要なことを教えてくれるのかなと思ったら、ノリで済まされてしまったのですが、そうして鷲宮さんと接点ができました。鷲宮町にはこれといった観光資源はありません、そして昼間には若い人たちがいなくなります。そうした地方の中小都市でこういったことができるんだというのは、町おこしや観光振興の面からも非常に面白い事例なのかなと思っています。

 最初に結論めいたことを言ってしまうと、(成功のポイントは)「商品」ではなく「交流」だったということです。観光振興や町おこしの基本は、実は1対1の人間関係、商店さんなどでの人間関係から発展したのです。そして商工会がそうした交流の核となる機関となり、(鷲宮神社前にある)大酉茶屋が交流の核になる場所となりました。

 キーワードは3つあると思います。1つめは「手作りであった」ということ。2つめはスタッフやファンの方、地域の方など皆さまが「作品のためになるようなことをしよう」と考えながらやられたこと。3つめは「みんなで楽しもう」と思いながらやったことです。こうすることで、『らき☆すた』ファンと鷲宮町が幸せな関係を築けたのです。

 先ほど坂田さんから説明がありましたが、『らき☆すた』が放送開始した2007年の4月過ぎくらいから、聖地巡礼ということでファンの方が訪れだします。そうした時にインターネット上でいろいろと情報交換がされました。そんな中、「ファンの人たちが鷲宮に来てうろうろすると、『怪しい人たちがいるんじゃないか』と(地域の人に)思われるのではないか」と『らき☆すた』の同人誌を描かれていたファンの方が気にされました。そして、「怪しく思われる前に、(迷わないよう)スポットだけを紹介して、地元の人に快く受け入れられるようにしよう」ということで、ネットや同人誌を通じてガイドをされました。そして鷲宮町の方でも、「こんな(観光資源のない)鷲宮町にお客さんが来ていただいている」「せっかく来ていただいたのだから何かできないか、楽しんでいってほしいなあ」という思いがあったことで、今でも続く幸せな関係がスタートしました。

 (鷲宮町の事例では)観光振興の面で、特徴的なポイントが4つあります。従来、観光開発をする場合には行政が開発計画を出したり、大手の旅行代理店さんに頼んで商品を開発してもらったりしたのですが、鷲宮ではそういうことがありませんでした。

 1つめは、従来はパンフレットやガイドブックで行っていたようなスポットの紹介が、全部ネットのクチコミになったことです。2つめは、商工会さんがインターネットを通じてファンとダイレクトにやりとりすることで、どんなニーズがあるのかを判断したことです。従来、こうしたマーケット調査は調査会社やマーケティング会社が行っていました。3つめは、ファンの方が企画者側に入ってきてイベントなどを開発したこと。4つめは、従来の観光では地域資源を商品化して販売するという発想だったのですが、そうではなくて地域に来てもらって、作品への愛などを共有しながら楽しさをどんどん広げていくスタンスだったことです。

観光振興の面で、特徴的な4つのポイント

 そしてアニメコンテンツをツーリズムに使う場合に、鷲宮町から学べることが5点あると考えました。

 1点目は「作品のファンこそが最も重要なサポーターである」というスタンスを鷲宮町商工会さんが一番大事にされたことです。コンテンツで町おこしをしようとすると、往々にして行政主導でそれを(観光)商品化したりしていく際に、ファンが置き去りになっているという例がよくあります。そうすると、ファンにしてみたら「自分たちが愛する作品に何てことしてくれるんだ」という結果になりがちです。鷲宮ではそれはなかった、これは本当に幸せなことだったと思います。そしてオーソライズ(権威付けること)をほどほどにすることも重要なポイントです。「アニメが日本の主要産業である」と言われてはいますが、「あくまでサブカルチャーであるということが大事なのではないか」と思います。オーソライズされた時点で、その良さや「自分のものだ」という感覚が失われてしまう気がします。

 2点目は「イベントや町おこしに関わった方々が、原作への敬意と愛を持って関わっていた」ということです。先ほど坂田さんが、『らき☆すた』ファンの方々がプラスで鷲宮ファンになっていったというプロセスをご紹介されました。もう1つは逆に鷲宮の住人の方々が、『らき☆すた』のファンになっていったのです。その両輪がうまく回っていったことが町おこしとして成功した要因であると思います。

 3点目は観光開発で非常に重要なところなのですが、「本業を忘れない」ということです。(コンテンツで町おこしをする場合)グッズやキャラクターに頼ってしまいがちです。しかし商工会さんが中心になってやられたことで、飲食店スタンプラリーのメニューのように、自分たちの商売に付加価値を付ける形で『らき☆すた』のキャラやコンテンツを入れ込んでいけたことが重要だったと思います。

 4点目は「過剰な商品化、演出は不要である」ということです。ファンにとってはグッズよりも変わらない風景こそが大切なのかなという気がします。『らき☆すた』とは別の例ですが、『おねがい☆ティーチャー』というアニメでは長野県大町市の木崎湖が舞台になっています。そこでは「舞台設定となっている2017年まで風景を守りたい」ということが町おこしにつながっています。

 5点目は「世代間と地域間をつなぐ(メディアになった)」ということです。メディアというとテレビやインターネットのように「映像を通して感じるもの」ととらえがちですが、本質的には「コミュニケーションの中間にあるもの、媒体となるもの」と考えるのが観光の面では重要かと思います。鷲宮では『らき☆すた』がまさにメディア、人と人のコミュニケーションの中間に立ったことでいろんな交流が促進されて、町ににぎわいが生まれたことが重要なポイントなのです。

 海外からのお客さんも来ます。私も鷲宮に行った時に、フランスから来た16歳くらいの女の子と商工会の皆さんとはちあわせて、フランス語はできないのですが、アニメのキャラの名前だけで会話ができたという面白い経験をさせていただきました。アニメを媒介にコミュニケーションできるのです。アニメを使った町おこしなどは今後、国際的なものも含めた交流を促進する上で重要なポイントになってくると思います。これが「地域間をつなぐ」ということです。

 「地域間をつなぐ」という横糸に対して、「世代間をつなぐ」という縦糸があります。先ほどお祭りの写真がありましたが、『らき☆すた』みこしで世代間が地域の中でつながれたのです。地域の中の絆をアニメが結んでしまったという点で非常に面白い事例だと思っています。(日本のアニメを国際的に展開する上では)とかく「アニメをどんどん見ましょう」という話になりがちなのですが、観光を通して実際に現地のものとリンクさせることでお客さんに来て楽しんでもらう、それを国際的な友好関係などに結び付けていく、というところまで発展させるのが将来のツーリズムを考える上で重要なポイントになってくるのかと思います。

鷲宮から学べる5つのポイント

 最後に「町おこしや観光振興においてアニメコンテンツってどういう役割を果たしえるのか」というポイントを3つ挙げてまとめたいと思います。1つめは「その地方を来訪するきっかけ」です。当たり前のことですが「旅行動機をどうやって作るか」ということです。2つめは先ほど言いましたように「コミュニケーションの共通言語になる」ことです。3つめはちょっと変な言葉なのですが「アニメが住民になりうる」ということです。ファンの方が鷲宮を訪れると、あたかもアニメのキャラクターが住んでいるような意識になれるのです。それは非常に重要で、『らき☆すた』みこしを担いでいる人の大半は、『らき☆すた』のキャラクターと一緒にかついでいる感覚で、「だから自分は町おこしするんだ」という気分になれると思うのです。そういう意味で、キャラに愛着や敬意を持って、地域のコミュニティメンバーとして位置付けていくことが大事なのかと思います。

 これをどうやってまとめようかと思ったのですが、『らき☆すた』の主人公である泉こなたさんの言葉を利用させていただきまして、町おこし、観光振興は「ひとえに愛だよ愛」ということで締めさせていただきます。

観光振興でアニメが果たせる4つのポイント

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