“ネットと政治”を考える(前編)――オバマにできたことが、なぜ日本の公職選挙法ではできないのか?(5/6 ページ)

» 2009年05月01日 13時50分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

なぜネットは制限されているのか

伊藤 ここからが今日の話につながるところなのですが、ネットについての規制は公職選挙法のどこに書いてあるのか。公職選挙法の第142条に「文書図画の頒布」という条文があります。「選挙期間中の文書図画の頒布は、法で規定されているビラとハガキ、マニフェスト以外には禁止されている」、つまり選挙期間中に配れるものは全部決められているのです。ビラであれば、証紙という小さなシールを貼り付けてあるものでないと配れません。また、政党が出すチラシも選挙によって違うのですが1〜2種類しか配れない。なんでもかんでも書いて出したらいいというものではありません。

 また、選挙ハガキというものがあります。「何でこの時代にハガキなのか」と思われるかもしれませんが、上限●万枚と決められていて、その枚数までだったら投函してもいいとなっています。選挙ハガキには推薦人が書いてあって、例えば「●●先生を推してください。私が推薦します」とあって、いろんなところに送ります。最近の選挙で改正されたマニフェスト、法律の中でマニフェストとは書いていないのですが、それについては「概要版と完全版を、選挙事務所と候補者がマイクを使ってしゃべっている付近であれば配っていい」となっています。

 法律の文言にはまったくホームページやメールといった言葉は出てこないのですが、なぜ今ダメだと言われているかというと、「文書図画は、人の視覚に訴えるものすべてだ」という解釈になっています。つまり、ホームページやメールは「PCディスプレイの上に表示された文書」という位置付けになっています。これは法律にも政令・省令にも書いていないのですが、総務省が所管している外郭団体が作っている公職選挙法の解説書にこう書かれているので、総務省の解釈としてそうなっています。

 「頒布」という言葉も聞き慣れない言葉だと思います。配布とちょっと違っていて、「不特定多数に配布することを目的として、1人以上の者に配布すること」を言います。ですから、誰に配ったかがしっかり分かればいいのですが、ホームページや不特定多数へのメールについては誰が見るかは分からない。そもそもそれだからこそ(不特定多数に見てほしいからこそ)ホームページを開設したり、(メールを)一斉送信するわけですが、こういうことについては頒布だという解釈になっています。

 これが今、日本の選挙ではホームページやメールが使えない、ブログも含めて使えないと言われている理由です。しかし、実際どうなのかというのはまた別の話です。「本当にみんなこれを守っているのか」というと、実際にはそうではありません。

 (守らない例には)大体2パターンがあります。1つ目のパターンは、違法と分かっていながら、「1回目は警告だろう。いきなり捕まるわけじゃないだろう」ということでやる確信犯事務所。2006年に総務省が調べたところ、ネットに関して選挙違反だと認定されたものが35件ありました。選挙期間中にホームページを更新したとか、一斉メールを送ったとか投票依頼をしたとかそういうものなのですが、35件すべて警告で終わっています。

 もう1つのパターン、こちらは非常に多いです。「違法の認識がまったくなくて、メールで不特定多数に送信する」といった例です。これは特に地方議員選挙で多くあって、この間私の知り合いの選挙でも、「今日、●●市会議員に立候補している●●さんが演説をしました。ぜひ皆さんご支援ください。投票日は何日です」とブログに書いていた人がいて、実際に今でも残っています。そう書いてあると、「特定の選挙名」「候補者名」「投票依頼」の3要素が揃ってしまっているので、本来は完全にアウトになるケースです。

 しかし、これは公職選挙法の難しいところで、はっきり白黒付けることはあまりありません。また、公職選挙法の適用の度合いは地域の実情によっても異なります。警察や検察の裁量によるところも非常に大きいです。ちょっと違う話になりますが、選挙ポスターは基本的に個人の家であれば貼っていいのですが、電柱のような公共の場所では選挙ポスターは貼ってはいけないと、公職選挙法ではなく広告物に関する法律によって決まっています。

 しかし、その対応は地域によって大きく異なっていて、貼ると絶対すぐに警告が来る地域と、選挙ポスターであれば許容されている地域とに完全に二分されています。そういうものが非常に多くあるので、今日私が言った話が皆さんの地域で全部そういう風に運用されているかどうかというのはまったく分かりません。これは「候補者側の陣営が、その選挙に応じて考えながらやっていくべきこと」と言われています。

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