“ネットと政治”を考える(前編)――オバマにできたことが、なぜ日本の公職選挙法ではできないのか?(6/6 ページ)

» 2009年05月01日 13時50分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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ネットが選挙に参加する上での問題点とは

伊藤 この後のシンポジウムにつなげるために、ネット選挙の問題点を整理してみました。

 1点目は「デジタル・ディバイド(情報格差)」です。これは受信側だけではなく、発信側のこともよく言われます。受信側については、「若い人の方がネットを利用する機会が多くて、高齢者についてはそういった機会がないから、情報を得る機会がなくなってしまうのではないか」とよく言われます。発信者側も、「いまだにメールも打てない議員さんがいることは事実で格差があるだろう」とは言われています。

 2点目は「偽ホームページ」や「なりすましメール」の問題です。候補者を装ってホームページを作成したり、メールを配信したりということです。

 2点目ともつながるのですが3点目は、「第三者によるメールや掲示板などを使った誹謗中傷」や「候補者情報の虚偽記載」です。「落選運動合戦が起きかねないだろう」とはよく言われる話です。韓国の大統領選挙では、落選運動合戦が非常に過熱しました。そこには違法なもの合法なもの両方が入り混じっていたのですが、その時の大統領選挙の投票行動に影響したとはよく言われています。

 また、先ほど田中さんが「オバマが共感を得たことで、多額のネット献金を集められた」とお話しされましたが、「なぜ日本の政治家はこんなことができないんだろう」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、今お話ししたように日本の選挙制度は非常に固くなっていてできません。情報発信をする候補者側も発信をする機会やツールが限られてしまっていて、受け取る側のニーズに応じていない状況があります。今日はネット限定のお話ですが、私はこれは公職選挙法全体の問題であると思っています。

 厳密にはネット献金ではないのですが、日本の国会議員でも1人、(米国と)同様のことを試している方がいます。福田峰之衆議院議員が、ホワイトサポーターズという名前で2008年10月からやっています。献金や寄付という言葉になってしまうと今の日本ではできないのですが、会員制にしているのです。1つの団体を作って、「会に入ってください。その会費についてはネットからクレジットカード決済できますよ」という仕組みを作ったのです。

 会費は月額980円、1960円、2940円、3920円と4つのコースがあるのですが、「月額980円のところからスタートした人が半年で5人」と(福田さんは)おっしゃっていました。これは「日本に寄付の文化が根付いていないからではないか」という考え方があります。米国では寄付の総額が年間約22兆円、寄付を受けられる団体が約69万団体あります。日本では寄付の総額約252億円、寄付を受けられる団体が約2万団体です。

 最後に、今までお話ししたように、「公職選挙法は候補者中心に書かれており、オバマがやったような民意をどうやってくみ取るかという精神で書かれてはいないのではないか」と思っています。「国民が政治に参加して、選挙がある」という発想ではありません。こういう法律の中でやるから、「有権者のあなたたち、勝手に投票してください」という状況になっているのではないかと思っています。「選挙が政治参加の手立てになるように、公職選挙法の根本の趣旨から変えていかなければならないのではないか。その中でも一番大きいネットを変えることによって、オバマのような成功につながるのではないか」と思います。

シンポジウムではさまざまな意見が

 田中氏と伊藤氏の講演の後には、これらの内容を踏まえて、国会議員の河野太郎氏や鈴木寛氏らが加わってシンポジウムが行われた。後編では、そのシンポジウムの様子をお伝えする。

 →後編に続く

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