新入社員「ハチロク世代」に秘められた、ゼロ成長時代の未来とは?(2/2 ページ)

» 2009年05月11日 12時18分 公開
[中村修治,INSIGHT NOW!]
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 「まず分かっていただきたいのが、メンバーのほとんどが海外で教育を受けたことがない人であるということ。また、メイン翻訳者の平均年齢は21歳くらいであり、これまでに翻訳の経験が皆無なこと。それでも彼らは、少しでもこのプロジェクトの役に立ちたいと思い、手を挙げてくれたのです。

 そして、自分の英語力のなさに愕然(がくぜん)としながらもしっかりと与えられた章を訳し切りました。それでも、改めて、僕たちがどんなに頑張ってところで、英語力には『限界』があるのです。ここまで読んで、よくもぬけぬけとそんなことが言えるなと思った人がいるかもしれません。そんな声にはこう答えさせていただきます。

 そもそも梅田さんだって僕たちには翻訳の質なんて求めていない、と。もし初めから完璧な訳を求めていたのなら、どうぞご自由に訳してくださいなどとはブログに書かなかったでしょう。だって、そんなのプロに頼んじゃえば質の高い訳が保証されるんだから」

「志」でつながれたゆるやかな連帯

 この動きは梅田望夫さんも、随時チェック&支援されていて、ご自身のブログ「My Life Between Silicon Valley and Japan」内で、翻訳の細部の質なんかよりも、うんと大切なことがある。「揚げ足取りのネガティブなウェブから高め合いのポジティブなウェブへ。ここまで当プロジェクトがやってきたのは、ポジティブな風を少しでも吹き込めるようにするための土台作りです」

 日本語圏ウェブ空間を、自らの手でよい良いものにしていこうと思って、新しい価値観をもって行動する若い人たちのスピリッツとリーダーシップのほうがうんと素晴らしいし、個人的にも嬉しい。それにしても凄いエネルギーとスピードであると賞賛されている。

 「狂った」感覚をメンバーみんなで共有し、尋常でないスピード感を楽しみながら、コトを起こしてしまう。1つの「志」に、世界に散らばる個の「有志」が集合する。そして、そのプロジェクトが終われば、個々に次へと動く。「志」でつながれたゆるやかな連帯こそ、優秀な「ハチロク世代」の理想とする組織形態なのであろう。

コミュニケーションの前提が違う

 「Web 2.0」以降の「集合知」に対する考えたかは、さらに進化している。こうやって独立系コンサルがネット上のビジネスメディアに寄稿し、御託を並べるというあり方は「ハチロク世代」にとっては、何も魅力もないではないか。

 ビジネスメディアの場には合理性はあるが、「狂気」がない。過去の時間はあるが、飛び込むべき「時間」がない。経済は成長するモノだと信じ、老いは嫌だと抵抗し続けている。そう考えてしまう我々おっさんの描く未来は、いまの延長線にある。ビジネスメディアで書かれている多くの記事は、ゼロ成長を経験したことのない我々おっさんが書いている。

 ゼロ成長時代の経験したことのない未来は、そもそも経験してきたコミュニケーションの前提が違う「ハチロク世代」の若者達が描いた方が正しいのかもしれない。

 「シリコンバレーから将棋を観る」全訳プロジェクトの発起人は、こんな言葉で、このプロジェクトを総括している。「日本はもう立ち直れないと思う」なんて言われて悔しいじゃないですか。僕はまだ立ち直れないなんて信じたくない。Wisdom of Crowdsの風が吹き荒れて日本を救う、そんな日が来ることを信じたい」

 こういう優秀な「ハチロク世代」が入って来られる魅力ある企業=器を作るためには、我々、おっさん達に、既成の価値観をぶっ壊す「狂気」が必要であると、改めて思う。いつまでも、健全に、狂ったおじさんでありたいと願う。(中村修治)

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