今回の『週刊新潮』の問題※について、ライバルである立場から話させてもらう。実は(『週刊新潮』の)早川編集長は私と同じ歳。同じ時期に就職活動をしたのだが、私たちのころは学生の数も少なく、だいたい同じ会社を回ることが多かった。2人とも新潮社と文藝春秋、両方の会社に受かった。なぜか2人とも別々の会社を選んだわけだが、お互い同じように編集の仕事を選んだ。
私は3月末に予定通り、編集長を退任した。しかし多くの人は出版差し止めの責任をとって、退任したと思っているようだ。早川編集もずいぶん前から編集長を退任すると言われていたが、(結果的に)今度の事件で交代してしまった。やはり人間って、運命があるんだなあと感じた。
ご存じない方も多いと思うが、佐野眞一さんは(他の出版社よりも)新潮社で一番多く本を出している。だからこそ(新潮社に)“愛”をもっていて……大変つらい立場で発言していると思う。
『週刊新潮』は我々のライバルだが、読者の方が知らない裏側を話したいと思う。赤報隊(朝日新聞の記者を襲撃した犯人)の誤報問題があったが、私もそっくりの体験をしかけたことがある。それは随分前のことだが、オウム真理教の事件が起きる少し前……坂本弁護士拉致(殺害)事件※というのがあったころだ。
まだ地下鉄サリン事件が起きる前……坂本弁護士を拉致した人間が、『週刊文春』に名乗り出てきた。取材をしていたのは江川紹子さん。彼女はその後、有名になったが、当時は全くの無名のライターだった。江川さんは「坂本弁護士が失踪(しっそう)した原因は自分にある」と思い込んでいて、“手弁当”で取材していた。
(文藝春秋社に)CREA(クレア)という女性雑誌があるが、クレアの編集部が旅行をしているときに、隣の部屋にいる男から声をかけられた。「あなたたち文藝春秋の方ですか? 実は打ち明けたいことがある。私は、坂本弁護士の事件を実行したんだ」と言ってきた。
これを聞いたクレアの編集部はビックリして、『週刊文春』に連絡してきてくれた。そして私から江川さんに連絡した。当時の江川さんは「とにかくこの取材のためには、あらゆる仕事を捨てる」と言っていたので、取材に行ってもらった。そして男から話を聞いた江川さんは「初めて真実らしい話を聞いた」と言っていた。
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