ガンダムは作品ではなく“コンセプト”――富野由悠季氏、アニメを語る(後編)(1/4 ページ)

» 2009年07月08日 13時22分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 アニメ『機動戦士ガンダム』の監督として知られる富野由悠季氏が7月7日、東京・有楽町の日本外国特派員協会に登場し、講演を行った。『機動戦士ガンダム』の放送30周年を機に招かれたもので、50人ほどの記者や一般参加者を前に、自らの半生や映画哲学などについて語った。

 講演の内容を収録した前編に続いて、後編では質疑応答の模様をお伝えする。

宮崎駿は作家であり、僕は作家でなかった――富野由悠季氏、アニメを語る(前編)

ガンダムは“リアルロボットもの”

――今年でガンダムは30周年ということですが、なぜこんなに長く人気が続いたと思いますか? また、「ディズニー作品はストーリーが子どもだまし」とお話されましたが、ガンダムのストーリーはそれとどう違うのでしょうか?

『機動戦士ガンダム』公式Webサイト

富野 30周年まで人気が続いた理由がもし分かっていれば、こんなにジタバタしていません。僕は来年に向けての作品も作っているのですが、そういうのが分からないから成り行きでやるしかないということです。

 ただ、うぬぼれた言い方を1つだけさせてもらいます。人型のマシンを“モビルスーツ”と規定した僕の才能があったから今日まで(ガンダム人気は)持ったのです。モビルスーツという造語によって、「ただの子ども向けのジャイアントロボットものとは違うテイストがあるのではないか」と思ってくれたファンがいたということ。恐らくそれが一番重要な原動力になって今日まで人気が続いたのではないかと思います。ガンダムは“リアルロボットもの”という言い方で評価されている部分もあります。

 「ディズニーの物語はシンプルすぎる」と多少嫌悪感を持って話しましたが、実を言うと物語はシンプルであるべきです。ただ、ガンダムの場合は、敵味方が同じ人間同士だったのです。それまでこのジャンルの作品の敵は宇宙人でした。敵味方のキャラクター(人間)が入り乱れる物語を作るということだけでも極めて斬新に見えたし、普通のドラマを描けました。それは、ディズニーが長編漫画映画でやっていなかったことです。

 ですから、「子ども向けだからやさしい物語を作る」のではなく、「戦場の物語だからこうなってしまう」という物語を、アニメーションのキャラクターを使って描いただけのことです。映画としてどう面白く構成できるかということしか気を付けなかったので、どのように含蓄のある物語があったかということではないと思います。

 動く絵、つまり子どもが見ても大人が見ても分かる表現手法によって物語られているのが映画的な手法だと思っています。基本的に「映画というものは観客の年齢を限定しないで済む媒体だ」と理解しているのが僕の立場です。ですから僕の立場で言えば、「ロボットが出てくるから売れる」と理解されている限り、ガンダムの原作者として敗北だと思っています。

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