あなたはもう食べましたか? ハワイのソウルフード……マラサダ(前編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(3/5 ページ)

» 2009年07月10日 07時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

お客さんに愛される理由

 わずか20坪の、しかも神谷さんと若いキッチンスタッフ2〜3人で回している小さなお店。しかしカフェ フラハワイの人気はすごく、週末や祝祭日ともなれば、その行列(待ち時間)は、40〜50分になるという。

 「マラサダは1日2000個ほど揚げるんですが、注文が入ってから揚げるので、どうしても、お客さんを待たせてしまう」。申し訳なさそうに言う神谷さんは、こう続けた。

 「『1個くらいダメでも良い。それくらい誤差のうち』などと思っては、絶対にダメだと思っています。お客さまはわざわざ、マラサダを食べたくて、遠くから時間をかけて来てくださっています。1人1人に満足してほしいという愛情を何よりも大切だと考えているんです」

 100年に1度の大不況と言われる昨今、企業や飲食店では経営が逼迫(ひっぱく)して、もはや何が大切なのか、という正常な判断力すら働かなくなっているのかもしれない。「このお店……サービスのレベルが低下したな」と、感じたことがある人も多いのではないだろうか。

 そういう中にあって、世の中がどう変わろうが、ハワイに対する、そして顧客に対する自分の想いを貫く。1個1個のマラサダ作りに魂を込めるというのが神谷さん流の美学だ。

 「でもね……実は私は、揚げ物も甘い物も嫌いなんですよ」と驚くことを言って笑う。

スパムむすび

マラサダ嫌いをも魅了してしまう神谷流マラサダ調理術

 そんな神谷さんが、どうしてマラサダを販売するようになったのだろうか?

 「私のようなタイプの人間が食べても『これはおいしい!』と感動するようなものを作るようにしているんです」

 では具体的にはどんな点にこだわり、そして何に力を入れているのだろうか?

 「ワイキキの、あのカラッとした空気、青い海と空、多くの日本人にとって非日常的な夢のような空間で食べるマラサダの味は、おいしいに決まっているんです。

 それを日本特有の、じめじめとした気候の、しかも、気分的にもストレスに満ち溢れた中で食べてもおいしいと思わせるには一体どうすればいいのか。そのためには、現地より3割くらいおいしくする必要があると考えたのです」

 その3割の内訳は何なのだろうか?

 「ハワイの現地では冷めること、油っこさ、甘さにアバウトです。ですから日本でやる時には、そこを変えることにしたのです。まず、油を吸わないようにすること。冷めても固くならないこと。小麦粉と卵の風味。しっとり感はなくすこと(日本では生と思われるから)。小麦粉はヨーロッパ産を用い、イーストはベルギーのものを使っています。あと大事なのは、揚げる油をすぐに捨てることです」

 この「油を頻繁に換える」というポイントは重要だ。大手チェーン系のドーナツ店でも、時として、食後に胸焼けがしたり胃がもたれたりすることがある。これはコストを優先するあまり、“疲労した油”で揚げ続けたことが原因であることが多い。しかし一度でも、そんな不快な思いをすれば、顧客はすぐにその店を見限ってしまう。だからこそ、1人1人の来店客のことを思うならば、油を頻繁に換える“勇気”が大切なのだ。

マラサダを揚げるために使用した油は、すぐに捨てるという

 神谷さんは言う。「油を捨てることで、お客さんは残るんです」と。

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