全10回でお送りする、ジャーナリスト・上杉隆氏と社会派ブロガー・ちきりんさんの対談もいよいよ最終回。上杉氏とちきりんさんは日本のメディアについては、どのように考えているのだろうか?
NHKを1週間で左遷され……政治とメディアの世界を“いったりきたり”(第1回)
なぜブログは炎上するのか? “嫌いな人が好き”の論理(第3回)
そもそもこの国で……「記者クラブ問題が存在しない」理由(第4回)
石原慎太郎、筑紫哲也、猪瀬直樹……彼らを判し、いろんなことを学んだ(第5回)
若いジャーナリストの芽を摘んできたのは……この男たちだ(第6回)
朝日新聞の記者はそんなにスゴイの? 日本の常識と世界の非常識(第7回)
今だからこそ、総理大臣には「ホリエモン」……その理由は? (第8回)
テレビに出演して分かったこと……それは“見えない空気”という圧力(第9回)
上杉 ニューヨークタイムズの支局長のハワード・フレンチ氏は、日本の記者クラブについてよくこう言っていました。「日本のメディアは砂の中に頭を入れているダチョウだ」と。自分たちは安全だと思っているかもしれないが、「このままでは死んでしまうぞ」という意味。砂の中に入れていると頭は安全かもしれないが、それ以外の部分は敵に襲われるかもしれない。また砂の中にずっと頭を入れていれば、やがて窒息するだけ。
ちきりん まさにその通りですね。それはメディアだけではなく、ほかの業界でも同じこと。例えば海外に輸出しているメーカーは、インテリぶったりしない。彼らは海外の企業と付き合う機会が多いので、視野が広い。一方、海外の企業と付き合いがない業界は「僕たちはインテリだよ」といった雰囲気を出そうとする(笑)。メーカーの人たちと比べ視野は狭いのに……。
上杉 日本のメディアは記者クラブがあるので、海外のジャーナリストと付き合うことが少ない。例えばゴルフのマスターズの取材に行くと、プレスセンターがある。そのプレスセンターに各国のメディアが混在しているのですが、日本だけブースで隔離されているのです。
マスターズの取材には40人弱の日本人記者がいましたが、ほぼ全員、石川遼君に付いて回っていました。今田竜二さんや片山晋吾さんに付いて取材したのは僕だけ。しかし遼君は初日、2日目の調子が悪く、日本に帰っちゃった。そうすると今度は、調子の良かった片山晋吾さんのところに記者がやって来た。つまり多くの日本人記者はゴルフを取材しに来ているのではなく、日本人を取材しに来ているだけ。
ちきりん 大リーグの報道でもそう。イチローが今日、ヒット2本打ちました……とか言ってるけど、マリナーズが勝ったかどうか分からないときがある。
上杉 ゴルフの取材をしない記者ばかりなので、プレスセンターで隔離されてしまったのかもしれない。
ちきりん それって恥ずかしいことですよね。
上杉 確かに恥ずかしい……。だけど、そのことに気付いていないのは日本人記者だけかもしれません。
ちきりん 日本のメディアは世界トップクラスのプレーに興味がないのかもしれない。遼君に興味はあっても、トッププレイヤーに対する知的好奇心がないのかな?
日本という狭い世界で、ずっと一番を追いかけてきたメディアというのは、「世界は知らない人たちがたくさんいて恐い」と感じているのかも。その姿はまるで、数十年前に海外旅行をする日本人のよう。
上杉 日本ではエリートだと思っているメディアですが、実は遼君にたいした取材をしていない。「朝食は何を食べましたか?」とか聞いている。これはぶらさがり取材の弊害で、会話は内輪話ばかり。なので政治家、スポーツ選手を問わず、公式な記者会見の席で、上手に話せない人が多くなってしまう。
ちきりん 取材される側の人も少しずつ変わっていく必要があるのかも。そして、ぶらさがり取材をしている人たちに「なぜそんな質問をするんですか」と逆質問できるようになると、お互い鍛えられますよね。
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