プレースメントというPR手法があります。
アパレルブランドなどが自社製品をテレビの番組や映画などに提供し、さりげなく視聴者に商品告知をする方法です。クレジットは出ないことがほとんどですが、時計の盤面が画面に大写しになったことでバカ売れしたスイスのミリタリー時計など、実は結構行われているものです。
じゃあ王将はどうしているのでしょうか。ドラマに出すという強引な手もあるかも知れませんが、実に巧妙な露出と展開をしています。つまり「あざとさ」が無いのです。
ネットで素人にもマーケティングメソッドが知れ渡るようになりました。しかし同時にその底も見えてしまい、かつて1980年代のようなマーケティング神通力は衰退していると感じます。そんな中、堂々と商品・ブランド告知を進める王将。時代をしっかり読めていることが立証されているのではないでしょうか。
王将は月間億単位の「割引券」を路上で配布し、店では何がしかの「特別提供メニュー」があり、やることなすこと、すべてがオーソドックス、いやここは敬意を払ってラテン語で「オルトドクス」と呼びたいですが、それが良くも悪くも「素」を暴きだす、現代の風潮には合うのではないでしょうか。
TBSラジオ「伊集院光の深夜の馬鹿力」でDJ伊集院氏が語ったところによると、テレビ番組制作予算がないので王将に賞品のスポンサードを頼んだところ、その番組のレーティングやターゲット・コンセプトではなく、「お宅の番組は頑張っている若手を応援していますか?」と聞かれたとのこと。キー局の番組やプライムタイムに出られるわけの無い無名芸人・若手オールスターズで成り立つ番組だということを伝えたところ、「頑張る若者を応援するのが王将なんで、それなら商品券出します」とあっさり交渉がまとまったそうです。
真偽はともかく(伊集院氏がウソ付く意味がないので真実でしょうが)、こんなことをされたらそりゃあ伊集院氏、ラジオでしゃべるに決まっていますよね。しかも伊集院氏の深夜放送ターゲットオーディエンスは明らかに、カフェめしやらスイーツとは別世界の住人。それが王将客層じゃないですか。
こうした一連の流れが計算の下で行われているのかどうかは知りません。単なる偶然の可能性もあります。しかしブランドマネージャーやクリエイターやプランナーが頭をひねって出てきたアイデアも簡単に見透かされる時代。クラシック・マーケティングの原点という王道を歩む王将の成功。ドンピシャ王将客層の私としては拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。(増沢隆太)
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