『OLYMPUS PEN E-P1』の発売、そして矢継ぎ早に『Panasonic LUMIX GF1』のリリースで、マイクロフォーサーズのコンパクト一眼ブームが花開いた。片手で楽に持てるサイズでありながらレンズ交換の楽しみが加わったことだけでもインパクトが大きいが、さらに大きいのが、2大メーカーが互換レンズを供給するという体制である。
これまで一眼レフは各社マウントが別々で、レンズの互換性がなかった。クラシックカメラの世界にまでさかのぼれば、LマウントやM42マウントといった共通フォーマットが存在したことはあるが、ここまでカメラ産業が発展した末の協業はスケール感が違う。
このコンパクト一眼の原型となったのが、『OLYMPUS Pen F』である。リリースは1963年、筆者が生まれた年だ。最初はズームレンズを含む4種類の交換レンズが用意されたが、最終的には3種類のボディ、全18種類の交換レンズで構成される一大カメラシステムとなった。
3種類のボディのうち、初代Pen Fがこれである。2作目のPen FTは露出計を内蔵し、セルフタイマーも付いた。またファインダースクリーンにマイクロプリズムを採用し、フォーカス性能を向上させている。3作目のPen FVは、FTから露出計を除いた廉価版である。
初代Pen Fの人気が一番高いようだが、これはデザインとしての完成度が高いというところからだろう。特に右肩にあるFの飾り文字が美しく、カメラ正面にここまで大胆に機種名をアピールしたカメラもまた、珍しい。
実はこの飾り文字部分には、本当はセルフタイマーのレバーが来るはずだったのだが、機構上入れられなかったのでそこがぽっかり空いてしまった。それでは寂しいので飾り文字を入れることにしたと、設計者の故・米谷美久氏の談話が残っている。のちの機種には、この位置にセルフタイマーのレバーがあり、このエレガントな飾り文字はなくなって、無骨な感じになってしまった。
Pen Fが小型なのは、これが世界で唯一の、ハーフサイズでの一眼レフだからである。フィルム面積を半分しか使わないので、レンズ径が小さくできることは想像できるが、一番大きな工夫は、カメラ上部にペンタプリズムを持ってこないという設計だ。
ではどうなっているかというと、ミラーを横に向けることで、ボディ横方向にファインダー構造を展開するわけである。これはプリズムを2つ使うことで上下左右を反転させるポロプリズムという手法がベースになっており、2つのプリズム間はミラーで反射させながらリレーしていく。
これによりファインダー構造が上部に出っ張らなくなったが、沢山の反射を利用するために、ファインダーが暗くなるというデメリットがある。実際にPen Fのファインダーはかなり暗い。ベテランの修理人の中には、内部のミラーをもっと反射率の高い物に交換してファインダーを明るくするという手法を開拓された方もいる。
またこの結果として、レンズがセンター位置からズレているという、独特のデザインを形成することになった。E-P1ではこのズレ方も継承しているのはご存じの通りである。
さらにユニークなポイントとして、Pen Fのシャッター機構には、半円(正確には190度)のチタン円盤を回転させる、ロータリーシャッターを組み込んでいる。ロータリーシャッター機としては過去に「Univex Mercury II」を扱ったことがあるが、構造が平たくできるこのシャッターを使ってうまいこと収めてしまったあたりにも、米谷氏の天才的なひらめきが感じられる。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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