アニメを“絵空事”にしないために――『サマーウォーズ』のロケハン術(1/6 ページ)

» 2009年10月27日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 文化庁は10月22日、東京国際映画祭のイベントとして「ヒットアニメに学ぶロケハン術」を開催、8月に公開されたアニメ映画『サマーウォーズ』の細田守監督が、東京藝術大学の岡本美津子教授や信州上田フィルムコミッションの原悟氏とともにアニメにおけるロケハンの重要性について語った。

 『サマーウォーズ』は長野県上田市を舞台としたアニメ映画。高校2年生の主人公、健二は憧れの夏希先輩から「一緒に実家に行ってほしい」というアルバイトを頼まれる。しかし、夏希の実家を訪れた健二が、携帯電話に届いた謎のパスワードを解いてしまったことから、世界を揺るがすトラブルに巻き込まれていく……という物語。『サマーウォーズ』は公開1カ月半で観客動員数は100万人を突破し、秋に入ってもロングラン上映が続いている。

『サマーウォーズ』 劇場用予告

結婚がきっかけ

『サマーウォーズ』の細田守監督

岡本 そもそも『サマーウォーズ』を作ろうと思ったきっかけは何だったのですか?

細田 私事なのですが、前作『時をかける少女』の公開後に結婚しまして、その時の体験が非常に面白かったなとぼんやり思っているうちに、映画に結びついたというように思います。

 『サマーウォーズ』はアニメ映画では珍しく、オリジナル脚本によるもので、自分としても初めてのオリジナル脚本による映画でした。どういう映画を作るか考えた時に、世界を救うヒーローの話を作ろうと思ったのですが、「いかにもヒーロー然とした人が世界を救うのではなく、田舎の親戚が世界を救うと面白いのではないか」と思いついた瞬間からこの映画が作られてきたと思います。

 その中で「なぜ舞台が長野県上田市になったのか」というと、僕の妻の出身が上田市だったことが関係しています。ただ、恥ずかしいので最初は上田からは自分の体験だけをいただいて、映画の舞台は別のところにしようと思っていました。しかし、結婚生活をしていると付き合っている時とは違って、家に帰ればたいてい妻がいるわけですよね。そうすると妻と話しているうちに、上田というのはこういうところなんだよ、あんなところなんだよというさまざまな上田情報が何の気なしに入ってくるわけです。そうして、妻を通じて上田のことをだんだん知っていったということが大きかったのではないかと思います。

東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の岡本美津子教授。前職のNHK時代には「デジタル・スタジアム」のチーフプロデューサーを務めていた

岡本 きっかけは結婚だったり、奥さんからのさまざまな情報だったと分かるのですが、それからさらに上田に関心を持つようになった理由は何ですか?

細田 実は最初、『サマーウォーズ』の脚本作りに入った時は、舞台は上田市ではなくて、別の町でした。しかし、上田市に限らず、ほかの候補もいろいろ見て回った結果、やはり上田市がこの映画の内容に一番ふさわしい舞台だと思ったのです。

 その理由の1つは、自分自身が『サマーウォーズ』の主人公と同じような境遇で、妻の両親や祖父母に初めてあいさつしに行った時、空の青さや風景の心地よさ、湿気が少なくて気持ちのいい場所ということがすばらしいと思ったからです。

 もう1つの理由は、真田幸村やそのお父さんの真田昌幸といった真田家が、上田市内で攻防戦をやって、徳川秀忠の大軍を退けたというダイナミズムのある歴史があるからということです。そして、その歴史的事実を妻も含めて上田市民がどうも誇りに思っているようなこと、「徳川を倒したぞ!」という心意気を持っていることがこの映画に向いているなと思って、最終的に「上田を舞台にするしかない」ということになりました。

岡本 風景、歴史、そこに息づく人々という3つのキーワードが出てきたと思うのですが、原さん、上田市というのはどういう町なのですか?

 人口16万人くらいの本当に小さな田舎町なのですが、細田さんがおっしゃったように、真田一族の物語を誇りに生きている人がたくさんいる城下町ですね。真田一族の歴史がまずあってその後、明治大正期には養蚕でとても栄えた町です。その養蚕業の衰退とともに、東京にも多くの人たちが移り住みました。

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