なぜ総合週刊誌は凋落したのか? 出版社を取り巻く3つの課題どうなる? 紙メディア(2/3 ページ)

» 2009年10月28日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

裁判所から“恫喝”された出版社

『週刊現代』(11月7日号)

 今年に入ってから、週刊誌にとって大きな出来事があった。いまから3代前の『週刊現代』の編集長は(関連記事)、朝青龍の八百長問題を取り上げた。そして「朝青龍が八百長をし、カネが動いた」※という記事を書いたことで、朝青龍側から訴えられたのだ。一審の判決が2009年1月にあり、「総額4290万円払え」という判決が出た。もちろん高額の賠償金額にも驚いたのだが、判決に「取り消し広告を出せ」と書いてあったことにも驚いた。つまり「この記事はウソでした。間違っていました」という記事広告を出すことだが、これは前代未聞ではないだろうか。

 また『週刊新潮』も、元横綱の貴乃花から訴えられた。賠償金額は400万円ほどだったが、判決文に「新潮社の社長に監督責任がある」とあったことに驚いた。確かに社長名で訴えられることは多いが、貴乃花のケースでは「間違った記事を載せるということは、社長に監督責任がある」ということを裁判所が認めたのだ。この判決は出版社にとって、“恫喝”とも受け取れるのではないだろうか。

 例えばヤクザの世界では、組の傘下の人間が、相手の親分を殺したりすると、その責任が組のトップにも及ぶという法律がある。これをメディアに例えると、朝日新聞が訴えられて、朝日新聞の社長に「お前に監督責任がないから、こんな記事が出るんだ」ということになる。また週刊誌でいうと、社長は毎号の記事をチェックしているわけではないのに、監督責任が問われてしまうのだ。ほとんどの出版社では週刊誌が発行されてから、社長室にその雑誌が届けられるといったケースが多いのに……。

※『週刊現代』が朝青龍と30人の力士から提訴されていた一連の八百長疑惑記事で、総額4290万円支払えという超高額賠償金が言い渡された。

説明義務を果たしていない新潮社

『週刊新潮』(10月29日号)

 週刊誌の問題を考える上で、2009年に起きた『週刊新潮』の大誤報を忘れてはいけないだろう。「朝日新聞の阪神支局襲撃事件は『オレがやった!』『オレが犯人だ!』」という男が現れ、『週刊新潮』はその男と接触した。そして彼をインタビューし、「大スクープ」といった形で、記事を掲載したのだ。

 しかし記事を読む限り、「この男が真犯人だ」と思わせるものがなかった。『週刊新潮』といえば、事件モノに強いといったイメージがある。それこそ「新潮は取材をシンチョーに行う」(笑)雑誌だ。これまでにも数々のスクープを飛ばしており、出版社系週刊誌の草分け的な存在。しかしその新潮社が「こんな記事を掲載するのか!?」と思うくらいの内容だった。さらに驚いたことは、記事の終わりに「以下、次号」と書いてあったことだ。「こんな記事を続けるのか!?」と思ったが、きっと2回目は「この男が真犯人に間違いない」といった証拠を出してくると思った。しかし2回目にもそのようなものはなく、3回目も4回目もなかった……。

 犯人が事件現場から持ち去った、緑の手帳などが掲載されるのかと思ったが、「犯人は持っていない」という内容。また共犯の若い奴は「昔に自殺した」とのこと。この男が、朝日新聞の阪神支局襲撃事件の犯人であるということを、『週刊新潮』はどうやってウラを取ったのだろうか。この記事を読む限り、全く分からなかった。

 連載中に、朝日新聞は「あの男は、真犯人ではない。我々も彼から話を聞いたが、彼が真犯人である確証は得られなかった」と、『週刊新潮』に反論した。そして犯人と称する男は連載終了後に、朝日新聞や『週刊文春』を集めて「あの記事は週刊新潮が勝手に作りあげたもので、オレはしゃべっていない」などと話した。私もこの世界で40年以上いるが、このようなケースは前代未聞だ。なぜ『週刊新潮』ともあろうものが、こんな男に簡単にだまされてしまったのか。

 記者や編集の仕事をしていると、だまされることはある。ただ、これだけのことを引き起こしたのだから、『週刊新潮』はだまされたことを真摯(しんし)に説明しなければならない。新潮側は「我々はなぜだまされたのか」といったことを説明していたが、残念ながら「自分たちも被害者だ」という書き方だった。そして、それ以上の説明は全くなかった。

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