第16鉄 かわいくてかっこ良くて便利な電車――富山ライトレール杉山淳一の +R Style(2/4 ページ)

» 2009年10月31日 05時44分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 理屈を語るよりも乗ってみよう。車内は外観の丸さからは意外なほど広く、天井が高い。ワンマン運転ということもあって、運転席と客室に仕切りはなく開放的だ。前方の展望も楽しめる。座席は向かい合わせ式で、二人掛けと一人掛け、一人半サイズもある。座席はJR時代に比べると減った。それは車体が小さいから仕方ない。その代わり日中の運行間隔は15分おきに短縮されたから、どうしても座りたい人は15分だけ待てばいい。

ライトレール車両の室内。床はフルフラットだ

 電車は道路と歩道の間をスルスルと走り、交差点を右折してインテック本社前に停まる。IT企業のインテックが駅の命名権を買い取ったのでこの名前になった。古参のゲームファンならPCエンジン用の野球ゲームを作っていたことを知っているかもしれない。現在はゲームを作っていないそうだ。ちなみにこの路面区間には不自然なS字カーブや片側が途切れた分岐器がある。将来は複線化できるように準備してあるようだ。

運転台付近は開放的で眺望も良し(左)。併用軌道(路面区間)のS字カーブ。将来の複線化に対応している(右)

 インテック本社前の次の奥田中学校前駅で路面区間は終わる。路面区間の最後に左折する場所があって、ここから旧富山港線の線路に入る。ちらりと旧富山港線の富山駅方向を見てみた。しかし、そこにはもう線路の名残は見つけられない。奥田中学校前駅は新しくできた駅だ。旧線にあって廃止になった駅の代わりに作られた。その奥田中学校は先ほどの交差点の向こう側にあり、駅のそばには北陸電力と関西電力の社宅がある。これだけ人の多い地域を、JR時代はなぜか1時間おきで走っていた。お客さんが集まらないわけだ。

旧JR区間にも変化がたくさん

旧JR富山港線だった区間

 線路専用の区間に入り、電車はスピードを上げて快調に走っていく。奥田中学校駅から先はJR富山港線の線路のままだ。変わったところと言えば駅だ。かつては各駅に駅舎があり、高いホームがあった。しかし、現在は電車の床の低さに合わせて、各駅に新しく低いホームが造られた。そして、粟島(大阪屋ショップ前)駅と犬島新町駅が新設された。列車のすれ違い設備も増えて、城川原駅には車両基地が造られている。大改造である。

 車窓も少し変化した。かつては平行する道路をバスが頻繁に走り、鉄道よりも便利そうに見えた。しかし今はバスの姿がない。富山ライトレールに改造するにあたり、この地域の交通は線路を幹とし、蓮町駅と岩瀬浜駅からフィーダーバスを走らせるという施策になったからだ。乗り換えが負担にならないように、バスもノンステップの小型バスで、駅のすぐ近くから発着する。運賃の乗り継ぎ割引もある。

 富山ライトレールの運賃はどこまで乗っても1回200円。フィーダーバスも1回200円。しかし、プリペイドカード「passca」を使って両者を乗り継ぐ場合はどちらも100円。つまり、バスに乗り換えても目的地までは200円で行ける。これもなかなか便利そうで、蓮町で乗り換える人も多かった。

 しかし、もっとも大きな変化は車内の人々だ。JR時代に私が乗った岩瀬浜行きの乗客はせいぜい数人。競輪開催日はもっと多いのかもしれないが、帰りの列車は私だけだったのを覚えている。それが今はどうだろう。車内はお年寄りだけではなく、学生服のお嬢さんや、スーツ姿の男女、母子連れ……関東や関西の大手私鉄と同じ客層の人々が、定員の半分くらい乗っている。午後にこんな状態なら、通勤ラッシュ時や競輪開催時はギュウギュウ詰めになるのではないかと思うほどだ。この人たちは、どうして今まで鉄道に乗らなかったのだろう。いや、なぜ今になって鉄道を利用するのだろう。インタビューしたい気分になるけれど、今日はLRTの取材に来たわけではない。旅である。旅をしようではないか。

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