「今スタートさせないと、10年後の成功はない」――日経が有料電子新聞に挑む理由ほぼ全文(2/3 ページ)

» 2010年02月24日 21時15分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

紙に影響を与えないことを前提に価格を決定

 質疑応答では喜多恒雄社長、小孫茂東京本社編集局長、岡田直敏電子新聞事業担当の3人が登場。電子版の値付けの背景や、広告戦略、今後の方向性などについての質問に答えた。

左から岡田直敏電子新聞事業担当、喜多恒雄社長、小孫茂東京本社編集局長

――どのような観点から値段を決めたのでしょうか?

喜多 「紙の新聞の部数に影響に与えない」ということを前提に、その範囲内で価格を模索しました。

――有料会員になる場合の契約期間にはどういったバリエーションがありますか。また、長期割引といったものはお考えですか?

岡田 契約期間については“何カ月”というのは設定していません。月4000円、あるいは日経をとっている人であればプラス月1000円という形で毎月更新していくという形です。従って、現時点では長期割引も考えていません。

――日経新聞購読者はプラス月1000円で、購読者以外は月4000円ということですが、これは68ルール(新聞販売における景品提供のルール、参照リンク)に抵触しないのかどうか教えてください。

岡田 68ルールというのは新聞の景品に関する姿勢のお話だと思いますが、これはそういうものには当たらないと思っています。そもそも電子版というのは新聞とは別の価格体系で売り出している別個の商品ですので、新聞の景品ではありません。したがって、新聞の景品を前提にした68ルールといったものの対象にもならないと考えています。

――日経新聞の購読者はプラス月1000円でとれるわけですが、その認証はどのように行うのでしょうか?

岡田 日経新聞の読者で電子版を購読されたいという方には、PC上で名前や性別、住所と同時にクレジットカード番号を打ち込んでいただきます。その際に、「あなたは日経をお読みになっていますか?」とお聞きします。そうすると「どこの販売店で日経をとっているか」が把握できるので、日経新聞の購読料と電子版の代金を合わせてクレジットカードで支払っていただくという形をとろうと思っています。

 販売店には私たちから購読料の分の代金をお渡しするという形で、代金回収の代行をするということにもなりますが、紙と電子版の分を合わせてクレジットカードで払っていただくことで、日経新聞を購読していただいている人だということが確実に把握できるという仕組みです。

――朝刊と夕刊の紙面イメージを読めるのは何時からですか。

岡田 紙面イメージがご覧いただけるのは朝刊は4時で、夕刊は15時半と設定しています。その時間になれば全世界どこでも日経の最終版がご覧いただけます。

――日本経済新聞電子版とあるのですが、これは再販制度でいう新聞に当たるのでしょうか?

岡田 いわゆる再販制度の対象にはならないと考えています。そもそも再販制度というのは、デジタルのこういったサービスを想定していません。それから、日本経済新聞電子版は直販商品なので、再販には当たらないと考えています。

紙の310万部という発行部数は維持できる

――無料登録会員や有料会員の数値目標を教えてください。

岡田 「いつまでに何部」といった目標は、対外的には掲げない形で進めたいと思っています。この電子版は「うまくいかなければやめる」といったものではなくて、「これから新聞事業の大きな柱になってくるものだ」ということでじっくり育てていくメディアだと考えていますので、「何年までにいくら」というものはあえて設定しないということです。

 ただ、日本経済新聞は紙で300万部出しているので、1つの目安として例えばその1割の30万部をできるだけ早い時期に達成したいというような思いは持っています。それから、無料登録会員と有料会員を含めた読者登録をしていただいた方々を私たちは日経IDと呼んでいますが、早期に50万IDは達成したいと思っています。早めに100万IDに乗せれば、読者サービスの向上につながりますし、ネットを通じた新しいネットビジネスを展開できる基礎になるのではないかと考えています。

――いつごろ黒字化したいとか、紙と電子版の契約者数がいつごろ逆転するといったことを想定していますか?

岡田 具体的にどうなるという計画や目標は設定していません。できるだけ早く黒字にしたいとは考えていますが、「いつなのか」については始めてみないと分からないところもありますので、「できるだけ早期に」とご理解いただければと思います。

――紙の部数に影響が少ない価格設定というお話がありましたが、紙の部数はこれからどのようになっていくとお考えでしょうか?

喜多 紙の日本経済新聞の部数は310万部くらいなのですが、これを維持していけると考えています。もちろん少子高齢化が進んでいって、5〜10年後に「維持できますか」と言われてもこうですとは言えませんが、我々はこの310万部という今の発行部数を当面維持していくと考えているし、努力して維持できるものだと考えています。

日本経済新聞(朝刊)発行部数の推移(出典:日本経済新聞社)

新聞とデジタルは共存できる

――紙の日経新聞にあって、電子版の日経新聞にないものが、たぶんなくなると思うのですが、紙の魅力が高まるような投資をする予定はありますか?

喜多 紙はものすごく持ち運びが便利で、一覧性もあるという意味で、紙には紙の良さといったものがあります。それから、これは人間の感性の問題ですが、紙の媒体で活字を見た方が読みやすいという人もたくさんいらっしゃると思います。そういう意味で、新聞とデジタルは共存できるのではないかと思っています。

 紙の新聞についてこれからどういうことをやっていくんだというのは、デジタルもそうですが、読者ニーズに応えた形での紙面改革、それから新しいコラムを作るといったことは不断なくこれまで通り継続していきたい。紙でもデジタルでもそうなのですが、コンテンツのクオリティが高くなければやはり読者には魅力あるものとみられない。「コンテンツのクオリティを高める」という意味では紙もデジタルも両方やっていきたい。それにどういう形の投資が必要かは分かりませんが、投資が必要なら投資して、あるいは海外の媒体やグループの媒体と協力してやるということを考えています。

――電子版で24時間編集体制になると、どのような変更があるのでしょうか?

小孫 主要紙は全部そうだと思うのですが、特に日本経済新聞の場合はグローバルに刻々変わっていくマーケット情報を24時間読者にお届けするということが1つの柱です。そのため、1980年代後半からすでに24時間体制で、東京が眠っている時にはロンドンやニューヨークが稼働して、東京に原稿を送ってくるというパターンになっていたので、そういう意味ではこれまでも24時間体制で、過重負担のないような体制を敷いてきました。

 今回の電子版では、東京で私たちが眠っている間に海外で大きなニュースが発生して、朝刊の締め切りが過ぎているという場合でも、そのニュースが電子版のトップに入るということがあります。その作業をするためのデスクが交代で24時間体制を敷くことになると思います。日経の一般の記者が24時間働くということではありません。ニュースの価値判断をして紙面を作るデスクが3交代制のパターンで編集につくという体制を、東京でさらに拡充するとお考えいただければと思います。

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