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» 2010年04月09日 08時00分 公開

もはや映画宣伝に“王道”はない――『東のエデン』に学ぶ、単館上映ビジネス(後編) (3/6)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

宣伝に王道はない

数土 『空の境界』や『時をかける少女』のように小さな興行からヒットして、しかもファンとのインタラクティブな関係を築いたという作品があったのですが、『東のエデン』ではそういったことを意識されたのでしょうか?

石井 もう、ほぼそこに注力したと言っていいと思います。(前編で触れた)「『東のエデン』TVシリーズ一挙上映AR【拡張現実】オールナイト(外部リンク)」のほかにも、ユナイテッドシネマ豊洲が作品の舞台となっているので、ユナイテッドシネマ豊洲のカフェを東のエデンカフェにしていただいたりしました。

東のエデンカフェのお知らせ(出典:ユナイテッドシネマ豊洲)

 ユナイテッドシネマ豊洲にはロケハンの時にもお世話になり、観衆の方もいろいろやっていただいていたので、そこに監督や私たちがうかがって、なるべく直接お客さんとコミュニケーションをとるようにしていました。

 かつてはそういうことは、むしろやってはいけないことだったという記憶があります。私たちは“空中戦”と呼んでいるのですが、メディアを通して監督の話を全国に伝えていく、という大量宣伝時代は明らかに終わりを告げています。特に今の若い人は情報過多なので、自分が必要な情報以外はシャットアウトするのですが、自分が生で実感できる情報に関しては貪欲にとっていく傾向が強いと思います。そこをいかに切り開いていくかということが今後の宣伝の大きなポイントになるので、ますます王道がない時代になってきていると思います。

 また先ほど氷川さんがおっしゃった60分尺のメリットなのですが、制作者サイドとしては60分を超えると、声優さんにお支払いする費用や、音楽に関する費用が結構変わってくるんですね。実は59分59秒23コマまでは安いんです(笑)。

 また僕がダメプロデューサーの話なのですが、『東のエデン』劇場版も60分以内に収めようとしたのですが、劇場版パート1も劇場版パート2も完全にオーバーしてしまったのです。劇場版パート2が90分オーバーする時には、僕もさすがに「90分オーバーしちゃいそうなんですよ」と聞いたんです。すると、「90分以上になっても120分までは同じなので、いくらでも伸ばしていいですよ」ということになったのですが。

氷川 ちなみにテレビシリーズと劇場版のDVDのセールスはどれくらいですか?

石井 テレビシリーズのDVD売り上げは『空の境界』などには及んでいません。2万5000〜3万本くらいの注文が来ています。今回、面白いと思ったのは、小説版を出版したところ、あっという間に5万部を超えたんですよね。これは悩みました。DVDの販売数より明らかに多いので、本来、見ている方々というのはもっといるんだなと。低年齢層にも支持していただいている作品なので、月々の小遣いのなかで4000〜5000円出してDVDを買うことはかなり厳しいのだろうなと思いました。

 最近はもう笑って済ますことにしているのですが、いただくファンレターに「YouTubeで見ました」と書いてあって、最初は「困りますよ」と言っていたのですが、若い人はほぼそうで、親戚の子どもも正月に『ONE PIECE』をYouTubeで見ていました(笑)。だからそういう時代には(DVD販売は)合わないなあと思いますね。

氷川 アスミック・エースの人から、「テレビシリーズより劇場版のDVDの方が売れ行きが良い」と聞いたのですが、それはやっぱり絵が完全にチェックできないからですかね。『東のエデン』はすごく細かいところも描いている作品なので、登場人物が使っている携帯電話に映る文字を初見は流し見して、後でもう1回確認するという楽しみがテレビシリーズではあったのですが、劇場版ではそれができないですよね。劇場版を見ている時に、「これはいつか確認せねば」と思うシーンがあったので、恐らく少なからずの方がそういう思いで買われたのではないでしょうか。

石井 そうですね。劇場版アニメを公開するメリットというのは、録画されない、ネットにも流れない、映画館でしか見られないキャッチがあるということですね。そこまで細かいところまで見ていただくのは、よほど好きな人なのでDVDを買ってくれるんですね。

氷川 地方で『東のエデン』を見て、上京した際に舞台となったユナイテッドシネマ豊洲に行って、また映画を見るという人も少なからずいると思うんですね。そうしたリピーターになること自体が、ある衝動を回想するものになっていますよね。

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