もはや映画宣伝に“王道”はない――『東のエデン』に学ぶ、単館上映ビジネス(後編)(6/6 ページ)

» 2010年04月09日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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今後の劇場アニメは

数土 最後に劇場アニメやアニメ業界全体が、これからどういう風に動いていくかということについて、ひと言ずついただけますか?

斉藤 僕はアニメ業界単独では見ていないのですが、映画業界で一番大きいのはこれからは今まで違って映画館が減るということです。シネコンがチェーン単位で撤退という話も聞いていますし、今年の夏以降そういう動きが顕著になると思っています。全国のスクリーン数が15年前と同じくらい、2000スクリーン以下みたいな状況になるかもしれません(2009年は3396スクリーン)。ですから、せっかく劇場アニメの小規模展開ができるようになったのですが、スクリーン数が減る影響がどういう風に出るかですよね。

 これからはハリウッド映画も大規模公開ができなくなりますし、日本映画でもテレビ局が映画制作に往年ほど熱心でなくなっているという話もちらっときいています。それはつまり、数字的な面だけから見るとヒット作が少なくなるということです。2009年は興行収入が100億円を超えた映画が実写・アニメともになかったので、その兆候はもう出ているんですね。

 そういう中でアニメ業界では、総合的な利潤を追求していくためにまた新しいノウハウが必要となります。ただ、幸いなことにメディアの数は非常に増えているので、そこでまた新しいものを開発していって、もうけていただくしかないのではないかと感じています。

氷川 2009年、2010年とつながっていく流れのなかで本当にすばらしかったなと思うのは、『サマーウォーズ』と『東のエデン』はアニメのオリジナル作品であるということです。「アニメは人気があるんだね」と思われているかもしれませんが、その9割くらいは原作付きだったり、何かの長期シリーズだったりするわけです。そういう中で、アニメの制作現場で命を削っている人たちが心血を注いで作ったオリジナル作品が受け入れられる、ということを実証してくれたことが何よりも心強いです。それはオリジナル作品が、成功するものばかりでは決してないと知っているからなんですけどね。

 原作がなくて、誰も内容を知らない劇場アニメを見るために、映画館まで足を運んで1800円を払うというのは、冷静に考えると相当のことなんですよね。でも、その相当のことを何とかやっていかないと、非オリジナル作品ばかりになってしまい、それでは行き詰まりになってしまいます。その突破口の1つとしてこういう成功体験があるということを、若いクリエイターたちに認識してもらえたらと思いますね。

石井 先ほど申し上げた通り、制作にも、企画にも、宣伝にも王道がないので、これから僕らも初心に返って新しいものを作れればと思っています。今、氷川さんがおっしゃったように、オリジナル作品を映画館でお客さんに見ていただくことの醍醐味は、何ものにも変えがたい経験でした。次の神山健治監督の作品はまたオリジナルを作ろうということで準備しているので、その作品をいつかみなさんに見ていただける日が来るとお約束して、私の話を終わらせていただきます。

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