批判されても、批判されても……貧困ビジネスに立ち向かう理由35.8歳の時間・湯浅誠(3/6 ページ)

» 2010年05月28日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
『世界』(岩波書店、2008年10月号)

 どのようにすれば、この問題を多くの人に分かってもらえるのだろうか――。そこでわたしたちは、ボランティア活動をしている人たちとのネットワークを広げていき、2000年に炊き出し用の米を集める「フードバンク」を立ち上げました。2001年にはホームレスを支援する「自立生活サポートセンター・もやい」を設立。もやいではアパートなどで新生活を始めようとしている人たちに、連帯保証人を提供しています。なぜ連帯保証人を提供するかというと、その人たちとの“接点”ができると思ったから。ホームレスの人たちだけではなく、DV被害者でもアパートを借りるとき連帯保証人がいなくて困っている人がたくさんいました。

 いまでも連帯保証人を提供する団体というのは、ほとんどありません。なぜいないかというと、リスクが高いから。わたしたちはなぜリスクが高いと感じなかったかというと、それまでホームレスの人たちと付き合いをしていたから。ただ彼らの連帯保証人になることで、このような批判がありました。「ちゃんとした生活ができないからホームレスになったんだ。彼らの連帯保証人になっても、みんないなくなる。あっという間に、もやいは破産するぞ」と。

 しかしこのような批判に対し、わたしたちは全く違った考え方をしていました。ホームレスとの付き合いがあったので、「そういう人たちではない」と。なのでアパートに入居できれば、きちんとした生活を送れるという確信がありましたね。実際、9割以上の人たちが「自立」した生活を送っています。

 支援活動の難しさは、相手との“接点”を見つけること。わたしは大学院に通っていましたが、そこでは相手を論駁(ろんばく)することが大切だと教わりました。議論して、相手を言い負かせた人が“偉い”といった感じ。もちろん議論の力はものすごく鍛えられるのですが、一般社会でそれをやっても仲間は増えません。違いを見つけるよりも、同じことを見つけることが大切。例えば、さまざまな運動体がお互いにいがみあったりしていますが、少し離れたころから見ると、ほとんど違いが分からない。それなのに、なぜかお互いの違いを際立たせている。つまり接点を見つけようとしないと、四分五裂(しぶんごれつ:秩序をなくしてバラバラになること)して、かえって力を失ってしまうのではないでしょうか。

 なので、わたしは意識的に違いを見つけようとせず、できるだけ接点を見つけるように心がけています。

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