鮮魚をその場で焼いて売る――オダキューOXの挑戦それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年06月01日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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「加工度」がもたらす効用

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 「手数料は焼き時間によって異なるが100円〜300円程度」(同)と、レベニューアップの効果が期待できる。さらに、焼き時間は「イワシなどの小さな魚なら5分ほど、イサキなどの大型の魚は20分ほどかかる」(同)ということなので、店内の滞留時間が長くなる。買い上げ点数が増加する期待効果もある。

 ここまでで、すでに「焼き売り」というサービスの効用は随分あるように思えるが、その意義は実はもっと深い。

 「加工度」というキーワードがある。

 農産物や魚介類などの生鮮食品は、収穫や漁獲高による相場の上下はあるがおおむね横並びだ。価格優位に立とうと思ったら、大量仕入れなどによるコスト圧縮などしか収益向上の方策はない。価格勝負は企業体力をすり減らす。それだけではない。少人数世帯の増加、人口縮小の時代に大量仕入れしても売り切れるだけのパイがどんどんなくなっていくのだ。

 消費者に商品がどのような価格で受容されるかは、商品の価値構造と関係する。例えば、飲料の場合、飲料を手に入れて実現したい「中核的価値」は「のどの渇きを癒やせる」ことである。ミネラルウオーターの相場は約100円だ。清涼飲料は「炭酸でスッキリする」「甘くてオイシイ」などの「実体的価値」が加わる。平均価格は150円。トクホ飲料は189円が相場だが、「脂肪を燃焼する」などの「付随機能」が加わっている。単純にのどの渇きを癒やせる水の「加工度」が向上するに従って、プレミアム分が加わっていき、最終的には倍近い金額で買われているのである。

 オダキューOXの「オーダー焼き魚」の販売は、もちろん競合が模倣することはできるサービスだ。だが、片手間ではなく、専用調理場を設けるという力の入れようから、先行優位を構築しようという意図が見える。確かに、例えば定食屋で食べる同じ焼き魚でも、どうもパサパサしておいしくないものもある。焼き方の巧拙で味が分かれる。

 そのスキルを確たるものにし、「オダキューOXの焼き魚はうまい!」という認知を獲得しようとしているのだろう。また、焼きたてを持ち帰っても若干冷めるのは否めない。掃除の手間や時間をかけない再加熱の方法をアドバイスしたり、焼き魚に合う副菜のレシピを提案したりという展開も予想される。

 「鮮魚を焼いて売るスーパー」から学ぶべきもの。それは、競合と同じ土俵で戦わないという戦略と、大量仕入れ・大量販売という旧来のスーパーのビジネスモデルが崩壊しつつある「縮む市場」と化した日本での生き残り策を「加工度の向上」というキーワードで考えさせてくれるものだ。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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