生き残るのが難しい……ゴーストライターの世界吉田典史の時事日想(3/4 ページ)

» 2010年07月02日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 その後、編集者は法務部(社内の法律問題に対処する)からこのようにしかられたという。「半年以上、原稿料を支払わないことが問題。こちらに落ち度がある」。この指摘を受けて、彼は2行ほどのお詫びメールを送ってきた。そして、2カ月後にようやく原稿料が振り込まれた。

 経営者は編集者の優柔不断な対応に不満を感じ、違う出版社に原稿を持ち込んだ。ここでも、原稿を書いた私も編集者も「詐欺に近い行為」を受けたことになる。経営者は、このことをいまも隠している。

 問題が起きると、いちばん損害を被るのが個人事業主であり、資金がないライターである。それならば発想を切り換えて、編集者の役割を果たすことが必要になる。つまり、仕事の流れやポイントを教えるのだ。このような法的な問題になったときも、分かりやすく教えないといけない。私は、それができていなかったのかもしれない。

 著者は、この世界の素人である。また、すべての編集者がこの仕事を隅々まで心得ているわけではない。私の経験で言えば、書籍編集者10人のうち3〜4人がこの仕事をある程度心得ている。だが、「プロ」と言えるのは2人くらいの割合だ。

 ライターは機会あるごとに、問題点を編集者や著者に伝えないといけない。そうしないと、三者には共有するものがないからだ。共有意識がないと、空中分解するので、最後はライターが泣きを見る。私がゴーストライターのことを書くのは、編集者や著者にこの仕事の問題点を伝えるためでもあるのだ。

好循環サイクルを回すことができない

 最後に、(3)の「ゴーストライターをする以前に、足元を見つめ直す」である。率直なところ、多くのライターがゴーストライティングをなめてかかっている。

 出版社の役職者もゴーストライティングをなめてかかる傾向があり、こうしたことが一段と状況を悪くしていくのだろう。相当に場数を踏んでいるライターですら、トラブルに巻き込まれるのである。そもそも、著者はトラブルメーカーが多いのだから。

 この事実を踏まえると、雑誌やWebサイトで少なくとも毎月50万〜60万円前後は稼ぐことができるようになることが先決だ。このくらいの収入を得ると、ゴーストライターの仕事の依頼があったときに、冷静に考えることができる。例えば「この著者はトラブルメーカーなのでまずい」とか「この編集者は過去に失敗をしているから、やめよう」という具合に。

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