閑話休題。
現在の筆者は作家を生業とし、主にミステリー作品を執筆している。ただ、筆者は経済部しか知らず、大手マスコミの記者が必ず経験する警察取材に携わったことがない。
このため、作品に登場する警察官にリアリティを持たせる目的で、複数の捜査関係者と接触し、警察組織の生態や事件の機微を教わっている。この過程で、先に触れた某大手銀トップの一件に関して重要な話を聞く機会があった。
長らく経済事件を担当してきたベテラン捜査員によれば、亡くなったトップが手掛けようとしていた不良債権処理では、「窮地に追い込まれる向きが確実に存在した」というのだ。この捜査員からは同トップの死に関連する追加情報を得た。証言の裏付けがとれないため本稿では詳細に触れないが、政府中枢からも死因を操作するよう暗に指示が出されていたことを、同捜査員がほのめかしていたことを鮮明に記憶している。
別のベテラン捜査員に接触した際も、死因が操作される――つまり他殺が自殺として処理されてしまうケースが存在することを聞いていただけに、筆者は身震いした。
自殺か他殺かを判断する警察組織は巨大なピラミッド型となっており、「上層部からの指示があれば、末端の捜査員は抗うことが難しい」との声も少なからず聞いた。現場に残された遺書の類いについても、「現場捜査員が偽装だと気付いていても、上層部の命令で本人自筆と断定されるケースはままある」という。
また、政治や外交などの複雑な要因が絡みあう事件の際は、「119番通報で駆け付けた救急隊員ですら現場に入れないケースがある」(消防庁関係者)との話に接する機会もあった。
これらは筆者が知り得たごくごく一部の話であり、すべて裏が取れているわけではないことを改めてお断りしておく。しかし、ここまで記した事象は、作家特有の妄想ではなく、元記者として取材し、知り得たネタなのだ。他殺が自殺として処理されるという一件について、筆者の抱く心証は限りなくクロだ。
先に触れた大手行元トップのご冥福を改めてお祈りするとともに、不当な死因操作がなくなることを願うばかりだ。
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