ローソンが農園の経営に――“誠実短小”の生鮮物流への挑戦郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2010年09月16日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

1日1日が勝負

 まず店舗までの物流の短縮。出荷物により異なるが、小松菜では従来は「出荷組合(農協)→中央卸売市場→仲卸→ローソン物流センター→店頭」と多段階で、48時間かかった。それを“中抜き”してローソンファーム千葉から物流センターを経由して、店舗まで24時間、最短16時間まで短縮。物流経費が下がり、生産者の顔も見える。

 そんな“コンセプト図”をパワポで描くのは簡単だ。だが現実では、生ものだから天候に左右され、虫害が発生しないとも限らない。大きな台風でハウスが倒壊するかもしれない。小松菜は、夏場は播種から収穫まで25日、冬場は2〜3カ月もかかる。もちろんほかの野菜も面倒をみる。日々リスクと隣り合わせである。出荷契約をまっとうするのは大変なのではないか。報道カメラに囲まれ、出荷デモ作業に笑顔で応じる利彦さんにこっそり聞いた。

 「1日1日、決して手を抜けないです」と一瞬真顔になったのが印象的だった。

出荷場での篠塚さん(右)、奧はお母さん。

 改めてローソンファーム千葉の出資比率を見ると、芝山農園75%、ローソン15%、東京シティ青果5%、RAG5%とある。東京シティ青果は卸売市場、RAGは仲卸大手。つまり、もしものときの市場調達の安全弁なのである。したたかであり責務を感じる布石だ。だがローソンが15%と低めなのはなぜか。“直営”をアピールするならもっと高めでもいいはずだが。そう思いながら、小松菜の収穫体験をしてみた。

お互いが嘘をつかずに

 今回のプレス発表で含まれていた収穫体験。私と同行した相棒cherryさんは、取材の輪から離れて、大きな刃のカッターで収穫体験。小松菜を抜いては切る。箱に入れる。その繰り返し。隣の作業場で下葉を取って量目をそろえて包装。ローソン100では3〜4本を105円で販売。ちょっとやるのは新鮮だが、この広さ、毎日の作業と考えると卒倒しそう。農家に「ありがとう」と言いたくなった。

cherryさんの収穫作業

 問題はこれをどう買い取るかだ。取材の輪から解放された前田さんに「収穫は変動しますし、消費にも変動がある。実際にはローソンはどんな契約で買い取るのですか?」と聞いた。

 「篠塚さんに数カ月先までの計画数量、規格、金額をお伝えして、その全量を嘘をつかずに買い取ります。支払いも当月払い。作り手も買い手も約束をし合う。嘘をつかない関係を作ります」

 いわゆる契約農家という取引形態は、直接仕入れで新鮮なイメージで消費者には耳障りが良い。だが実際には流通側が「この量をこの金額で買うぞ」と伝えながら、市場価格や計画変更で「買わない」と通達することもある。「需要がある時にだけ買う契約」とは果たして契約なのだろうか?

 「大変なことに足を突っ込んだんです」と前田さん。

 ローソンの考える流通業の使命とは「計画的な発注」「全量買い取り」「効率・迅速・正直なサプライチェーン」。芝山さんの使命は計画的に作り、契約量を渡し、サプライチェーンの起点となること。どちらも嘘なしでないとうまくいかない。「任せるぞ」というメッセージが出資比率15%なのである。

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