「Twitterは中国に100%自由な言論空間を与えた」――トップツイーター安替氏の視点(3/7 ページ)

» 2010年10月26日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

ネットユーザーが記者となった

安替 「なぜ、Twitterが中国を変えられるのか」を説明する前に、中国メディアの報道体系についてお話しします。

 中国ではメディアを通じて情報が人々に届けられるまでに、政府が手を入れて、政府の語りたいように変えるという仕組みがあります。つまり、政府に都合のいい情報が流れやすいんです。伝統的なメディアでは、1週間に5日、政府の宣伝部が電話をかけてきて、内容をコントロールするという形がとられています。宣伝部の人も人間なので週末は必ず休むのですが、週休2日を除いた5日間、メディアは電話でコントロールされています。

 そのため、中国国内メディアで見れないような情報、例えば劉暁波さんに関する情報などは、ニューヨークタイムズやワシントンポストなど、外国メディアが報道する英語の情報から私たちは得ていました。

 また、中国と日本のメディアには大きな違いがあります。

 中国でインターネットカフェが普及したり、家庭でインターネットが使えるようになったりしたのは1998年前後のことです。そして、2000年に大きな変化がありました。2000年にメディアの商業化が進んだのですが、その時、各地に大きなメディアグループが形成されました。

 そうしてメディアが拡大したのですが、問題はそこで働いてくれる記者が見つからなかったことです。学校でメディアについての教育も行われていたのですが、それは通信社系の伝統メディアである新華社の方式にのっとった政府系の教育だったので、商業化されたメディアの要求にはこたえられませんでした。そこで、その時にメディアが目を付けたのが、すでにインターネットを使って情報発信しているユーザーだったのです。

 僕も大学でコンピュータを学んだので、2000年以前はプログラマーをしていました。その僕が、2001年に北京の「華夏時報」という新聞にトップコメンテーターとして採用されたのです。その後、「21世紀世界報道」紙の北京の主席記者となり、イラクのバグダッドに戦争取材に出かけました。2003年にイラクから帰ってきてからはニューヨークタイムズの北京オフィスに転職して、4年間仕事しました。そしてその後、ケンブリッジ大学とハーバード大学で勉強することになります。つまり、ただのプログラマーだった人間がメディアの拡大にともなって、その可能性が大きく広がったという例になると思います。

 2000年にメディアが拡大してから、ちょうど10年が経ちました。この過程で生まれてきた記者の60%ほどは、もともとネットユーザーだったというバックグラウンドがあります。中国でブログやWebサイトが注目されるのはこういうところに理由があるんですね。つまり、彼らは記者になる前にブロガーとして、情報を発信していたんです。これは多分ほかの国ではありえないと思いますし、「日本だとまったく逆の状況だ」と僕は理解しています。

 中国のメディア状況を理解するためにはまず、この伝統メディアとインターネットメディアとの関係をよく理解してほしいと思います。つまり今、メディアで働いている記者たちは、昼間は出社して所属するメディアに書くべきことを書いて、書いてはならないと言われたものは書かないという仕事をしています。しかし夜、家に戻ると、取材の内容や自分の知っていること、昼間に書けなかったことをブログやWebサイトなどで発表するわけです。ブログやTwitterに代表されるマイクロブログが登場したことによって、中国人の情報発信力は拡大したのです。

 2004年ころからブログが登場するわけですが、ブログの数が爆発的に増えていくと、当局も自分たちの力だけでは管理できなくなってきます。ブログで何が書かれているかをチェックしないといけないわけですが、それができなくなる。そこで、当局は各ブログサービスの運営者に、その役割を任せるようになりました。各ブログサービスの管理者が、自分のサービスを利用しているブログで不適切な発言をするブログがあれば削るようにさせたわけです。だいたい半日に1回、管理者がチェックして、まずい情報が出た時にブログが削られるという管理が行われていました。

 しかし、Twitterでは一瞬のうちにたくさんのツイートが投稿されるので、それをすべてチェックするためにはものすごく多くの人手が必要となり、その費用も莫大なものとなるわけです。そのため、Twitterに代表されるマイクロブログは管理できない状態になってしまいました。過去2000年、中国人は自己規制の中で暮らしていたわけですが、Twitterの出現で中国人は初めて、100%自由な発言空間を手にしたわけです。

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