「Twitterは中国に100％自由な言論空間を与えた」――トップツイーター安替氏の視点（1/7 ページ）

[堀内彰宏，Business Media 誠]

　「国内での言論活動が制限されている」としばしば言われる中国。実際、当局によるメディアの監視は行われており、言論活動が原因となって入獄している人も少なくない。しかし一方で、Twitterなどのメディアを駆使して、自由に交流したり、世界に対して積極的に情報発信を行ったりしているネットユーザーたちが存在していることはそれほど知られていない。

　国際大学GLOCOMが10月21日に行ったシンポジウム「中国におけるネットメディアの興隆と日本との関係」では、そんな先駆的ネットユーザーの1人である安替（Michael Anti）氏が中国のネット言論空間の実情や日本と中国の関係などについて語った。

安替氏は国際交流基金の招きで東京大学の客員研究員として来日した

安替（Michael Anti）

ジャーナリスト、コラムニスト。1975年、中国・南京生まれ。2002年華夏時報、2003年「21世紀世界報道」紙の記者を経て、米紙「ニューヨーク・タイムズ」中国総局のリサーチャーを務める。2007年にケンブリッジ大学に留学、同年後半からハーバード大学でニーマンフェローとして学ぶ。現在、「南方都市報」などでコラムを執筆。ペンネームは反対精神を表す英語の「Anti」（アンチ）から。Twitterアカウントは@mranti。

Twitterが伝えたノーベル平和賞受賞後の話

安替　10月8日に中国人の劉暁波（リュウ・ギョウハ）さんがノーベル平和賞を受賞しました。現在入獄している劉暁波さんにノーベル平和賞が贈られたことに対して、中国政府は非常に厳しい対応をしています。劉暁波さんが受賞したというニュースは、中国の一般Webサイトやメディアではまったく報道されていません。そのため、劉さんが受賞したという情報はTwitterなどのソーシャルメディアを通じて人々にもたらされています。

　受賞翌日の10月9日、劉暁波さんの奥さんの劉霞（リュウ・カ）さんが、この知らせを持って劉暁波さんに会いにいきました。しかし、その直後から劉霞さんは完全に外部との接触を経たれた軟禁状態になってしまいました。外部との接触というのは電話などの通信も含めたもので、もちろん面と向かって会うこともすべて禁止されています。

　劉霞さんは通信の手段を完全に断ち切られているのですが、実は手元にiPadを持っていたんですね。彼女はTwitterに@liuxia64というアカウントを持っているのですが、iPadを使って外界と連絡をとられました。中国国内ではTwitter公式サイトへの直接のアクセスはブロックされているので、VPNサービスや第三者が作成したアプリケーションを使って利用するということが行われています。劉霞さんもそのようにして、アクセスしました。

　10月16日に警察が「ショッピングをしろ」と劉霞さんを連れ出しました。しかし、それは「彼女が外で自由にショッピングができる身分である」と証明するために作られた演出であることに、劉霞さんは後で気付きます。そこで10月16日の夜、劉霞さんはそれについてのツイートを投稿しました。

　劉霞さんがTwitterでつぶやいた数時間後、まずBBCの中国語サイトが「劉霞さんはこういう状態にある」という情報を流しました。それに続いて、フランスのラジオ局や日本のメディアも同様のニュースを報じました。

　下図は劉霞さんのTwitterカウントのフォロワー数の推移です。ご覧の通り、10月16日を境にどっと増えています。また、それと合わせて、10月20日には劉霞さんのアカウントに本人認証を与えられました。

　グラフを見ると、劉霞さんのフォロワー数は5000〜6000人ほどで長らく推移していたのですが、劉暁波さんがノーベル賞を受賞した10月8日ごろから増え始めて、1万人を大きく超える数にまで伸びたことが分かります。それは明らかに、「劉霞さんが何を考えているか」を外部の人が知りたいと思ったからでしょう。

　Twitterはほんの少しの文字を書き込むだけで、広く世界中の人々に見てもらえる可能性があるサービスです。世界中のメディアがツイートを読めるため、外界と連絡する方法が閉ざされている人間でも、影響力を発揮できるようになっています※。

※現在、劉霞さんのiPadは取り上げられていて、Twitterができない状態になっている。

劉霞さんのTwitterアカウントのフォロワー数の推移（出典：TWITTERCOUNTER）