小学生の自殺は他人事ではない! 職場でもイジメは起きている吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年11月19日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

イジメを1人で抱え込む心理

「いじめ世界」の子どもたち』(著・深谷和子、金子書房)

 明子さんはなぜ1人でいじめの問題を抱え込むようなことになったのだろうか。私が1990年代初めからいじめの取材をしてきて、最も信用できる書物が『「いじめ世界」の子どもたち』(著・深谷和子、金子書房)である。深谷氏は、関係者への徹底した聞き取りでいじめの真相に迫っていく。ぜひ一読をお勧めしたい。

 深谷氏は、子どもは小学6年生ごろになると「いじめを受けている」といったことを親に言わなくなる傾向があるという。その理由に「自尊心」を挙げている。子どもはこの年齢になると、「自尊心」が備わり始める。

 『「いじめ」のターゲットにされる子は、弱くて、社会的価値に欠ける側面があるとみなされた子である。(中略)自分がターゲットにされること自体、自分への仲間の評価、まなざしがそのようなものだと、子どもは思い知る。(中略)しかしレッテルがその一枚だけなら、まだ我慢もしよう。もう一枚さらに屈辱的なレッテルを重ねて貼られるのは、耐えられないと子どもは思う』(142ページから抜粋)

 2枚目のレッテルは「いじめに耐えられなくて、親や先生に助けを求めた奴」というものだ。これにより、決定的に弱い立場になるという。だから、この年頃の子は親や学校にあまり言わなくなるのだと結論づけている。私がかつて取材をしたいじめでも、被害者の子は親や教師に実態を言わなかった。私が小学生や中学生のときにも同じ教室でいじめはあったが、その子は卒業するまで泣き寝入りをしていた。

 これは私の想像でしかないが、自殺した女の子は皆から無視をされながらも、ときには自分が何も苦しくないと装い、そして懸命に耐えて「自尊心」を守ろうとしていたのだろう。「あともう少しで中学に行ける。そうすれば……」と考えていたのではないだろうか。しかし、最後にその心が壊れてしまった。大声で泣いたその瞬間が、残された力を振り絞った、せめてもの“抗議”だったのではないか。

 誤解がないように述べると、深谷氏はこのような「自尊心」の持ち方は誤りと説いている。『勇気を出して、他人に事の不当性を訴えるべきこと、自尊心を大切にしたかったら、勇気を出して訴え、あらゆる人たちの力を借りても自分を護ることが必要なのだが、それができないところに、日本文化の問題がある』(142ページから抜粋)

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