小学生の自殺は他人事ではない! 職場でもイジメは起きている吉田典史の時事日想(3/3 ページ)

» 2010年11月19日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]
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職場にある、間違った「自尊心」

 実はこの事件と似たようなことは、多くの職場で起きている。社団法人日本産業カウンセラー協会は2007年に「職場のいじめ」に関するアンケートを実施(参照リンク)。産業カウンセラー440人に聞いたところ、約8割が「職場のいじめ」事例について社員などから相談を受けたことがあると答えている。

 その中で最も多かったのが「上司によるパワーハラスメント」(78%)。その次に「人間関係の対立・悪化に起因したいじめ」(59%)、「仕事のミスに対するいじめ」(44%)などが続いた。

「職場のいじめ」と考えられる事例(出典:社団法人日本産業カウンセラー協会)

 このようなトラブルに巻き込まれたときに、会社員はどうしているのだろうか。今回取り上げた小学6年生の女の子と同じく、多くの人が声を出すことができないのではないか。私が以前、労働組合の役員をしているときに組合員(会社員)から職場の問題について相談を受けることが数多くあった。

 しかし、そのときに自らが「いじめを受けている」とはなかなか言わない。その人の周辺から聞くと、上司からストーカーまがいの行為を受けている人がいた。それでも、本人の口は堅い。それどころか、いじめを行う上司をかばうことすらあった。「労組から役員や人事部に抗議をすると、私の上司が役員たちからとがめられませんか?」などと言う。ここにも、間違った「自尊心」や考え方がある。

 このあたりの会社員の心理は、深谷氏がいうところの、いじめを受けた子どもの分析と重なるかもしれない。いじめの被害に遭う会社員からすると、1枚目のレッテルは「自分は上司からしかられるほど、ダメな奴なのだ」というもの。2枚目は「自分は労組に助けを求め、逃げ込んだ奴」というものである。

 私の会社員のころも、あるいは取材先で知り得た事例でも、労組や労働基準監督署に「不当な行為を受けている」と訴えた人はいた。その後、その人は皆から無視をされるなどいじめはエスカレートしていた。中には、人事部や実力のある管理職(本部長、部長など)が「あいつは、会社の内情を第三者に話した」などと吹聴し、いじめをけしかけていたこともある。その場合、管理職になる寸前の30代の社員がそそのかされ、いじめを扇動する。なぜ30代社員がそのようなことをするかというと、「出世したい」という思いがあるのだろう。もちろん上層部はそうした心理を見抜いている。

 こういう何枚にも重なるレッテルを前に、多くの会社員は泣き寝入りをする。ときには、心の病になっていく。いちばん深刻なレッテルは「自分は能力が低い」という、いわば自己責任のものである。会社は、会社員たちのこの心理を巧妙にあやつり、排除していく。周りは、自分の身が大事といわんばかりにだんまりを決め込む。小学6年生の女の子はいじめが原因で自らの命を絶ったが、職場でも形を変えていじめが起きている。

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