なぜ談合は悪いのか?――公共工事で余った880万円を返金しようとした、希望社の真意新連載・嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(1/5 ページ)

» 2010年12月03日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「リーダーは眠らない」とは?

 技術革新のスピードが上がり、経済のグローバル化も進む中、日夜、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き、どんなことに注目して、事業を運営しているのでしょうか。「リーダーは眠らない」では、さまざまな企業や団体のトップに登場していただき、業界の“今”を語ってもらいます。

 インタビュアーは戦略経営に詳しい嶋田淑之氏。徹底した聞き取りを通して、リーダーの心の内に鋭く迫ります。


 1990年代以降、数多くの談合事件が摘発され、公共工事をめぐる不公正かつ不透明な商慣習は社会的な批判を集めてきた。最近では建設業界をめぐる不祥事発覚のニュースも減り、業界環境の透明度が高まる方向へと向かいつつあると思われている。

 しかし、「本質的な問題は何一つ変わっていない」「現在の建設業界で行われていることは“官製談合”そのもの」と主張し、業界革新、さらには日本の社会改革を実現すべく、戦い続けている経営者がいる。岐阜県の建設会社、希望社の桑原耕司会長だ。

 一体、建設業界をめぐる何がどう変わっていないのか? そもそも何が問題なのか? その中で、桑原会長率いる希望社は、どのように戦っているのか?

 建設業界に普段縁のない人々にとっては、一見無関係に見えがちな、しかし、現実に我が国の官と民の関係の本質に関わるこの問題の深層について、桑原さんにお話をうかがってみた。

希望社の桑原耕司会長

実はよく知られていない公共工事の入札制度

 公共工事の入札制度については、時折耳にするとはいえ、一般のビジネスパーソンにとっては、「何となくしかイメージできない」というのが実態ではないだろうか?

 簡単に説明すると、公共工事の落札価格は多くの場合、国や自治体が案件ごとに作成を義務付けられている「予定価格」を上限、「最低制限価格」を下限とし、その間で決定される。

 最低制限価格は、それよりも落札価格が下がると、品質の悪化や安全対策の不徹底、労働条件の悪化、下請け企業群の赤字といった事態が発生しかねないということで、そのリスクを回避するために設けられているもの。そのため、入札価格が最低制限価格を下回った企業は失格となる※。

※最低制限価格制度を採用していない自治体では、一定額未満の入札に対しては「低入札価格調査」が実施される。低入札価格調査では、発注者が業者に対し、価格の内訳書などを提出させて適正な施工が可能かどうかを調べる。

 通常、最低制限価格は、予定価格に一定比率をかけて算出されるが、その比率は自治体ごとに異なっており、70〜90%の間、多くは85%前後になっているようだ。

 自治体の指名した少数の企業の間で入札が行われる「指名競争入札」がほとんどを占めていた時代(2000年前後まで)は、多くの場合、予定価格ギリギリの価格で落札されており、企業間での事前の調整や発注する役所側の誘導があったことを匂わせていた。いわゆる“談合”である。

 そもそも予定価格は上限としての設定であり、民間工事と比較すると、かなり割高だと言われている。その予定価格ギリギリで落札するのであるから、建設会社は国民の税金で不当な利益を得ているということになるわけだ。

 こうした状況に対して、「公共工事のほとんどが官製談合。明治時代から連綿と続く官僚たちによる業界支配、国民支配を打破すべき」と主張し、タブーとされる談合破りを実践してきたのが桑原さん率いる希望社なのである。

 1990年代以降、相次ぐ談合摘発を受けて、民間の談合組織も次第に解体し、あからさまな談合を実施しにくい空気が醸成されていった一方、指名競争入札に加えて一般競争入札※の比率が高まっていく。一見、健全化してきたように見える建設業界。しかし……!

※一般競争入札……一定の条件を満たす希望者すべてが入札に参加できるため、談合が起きにくい。
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