なぜ談合は悪いのか?――公共工事で余った880万円を返金しようとした、希望社の真意新連載・嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(3/5 ページ)

» 2010年12月03日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

「過剰利益の880万円をお返しします」

 「今年1月、岐阜県発注の公共工事『衛生専門学校南棟西耐震補強建築工事』を、弊社が5100万円(予定価格の85.98%)で落札しました。

 そして入札に当たっては、県に対して次のような提案を行ったのです。『本工事の入札金額は5100万円(税抜)ですが、これは最低制限価格を考慮し、失格とならないために提示する金額であり、当社では一定の利益を確保した上で4220万円(税抜)で品質に問題のないものを施工することができます。当社が落札となった場合には、岐阜県の財政再建のために入札金額と施工可能金額との差額を返還したいと考えております』」

 この案件は、予定価格5931万5000円(事前公表)で、指名競争入札が行われたのだが、最低制限価格は事後公表であり、桑原さんの言う“ダーツゲーム”的な入札となった。

 「県から指名を受けたのは20社ですが、その中で実際に入札したのは12社です。弊社を含めて、7社が予定価格の85%台での入札でした。しかし、その内の6社は最低制限価格をわずかに下回り失格になったのです。弊社の入札金額がたまたま紙一重のところで最低制限価格を上回ったので、落札できたんですよ」

 桑原さんによる上記の提案そのものは、発注者の岐阜県からするならば、困惑材料でしかなかったろうが、それには触れず、指名競争入札のルールに則って希望社の落札とした。

岐阜県発注の公共工事『衛生専門学校南棟西耐震補強建築工事』の入札

 過剰利益の880万円(5100万円−4220万円)を県に返還することを前提に取り組んだ案件であったが、希望社の技術力やコスト削減努力が功を奏して、竣工時にはさらに640万円の過剰利益が出ていた。

 「880万+640万=1520万円を岐阜県に返還しようと一度は考えたのですが、それでは予定価格の60.3%で受注したことになり、『これはダンピングに当たる』と役人は言うわけです。それでやむなく、もともと『880万円を返還する』と申し入れていたこともあり、880万円だけを返還することに決めたのです」

県は過剰利益の受け取りを拒否〜その真意は?

 ところが、岐阜県側は880万円の受け取りを拒否してしまう。

 しかし、この拒否はある意味、当然の反応であろう。希望社が過剰利益と称する880万円を「ハイ、そうですか!」と受け取ってしまうようでは、「発注者として岐阜県側が算出した予定価格や、そこからはじき出された最低制限価格は一体何だったのか」ということになり、その正当性を自ら否定するようなものだからだ。

 「返還交渉が一向に進展しないので、今度は『岐阜県の財政を助けるために寄付したい』と申し出たんです。しかし、それでもやっぱりイエスとは言わないんですね。『岐阜県のこの案件には触れずに、途上国の災害援助などに同額を寄付するのなら構わないけれども、この案件と結びつけた寄付は困る』と言うんですよ」

 役人の側からすると、「返還」が「寄付」へと名称を変えただけで、自分たちが構築し支配する入札制度の正当性を根底から否定されていることに何ら変わりはないのだから、おいそれとは受け取れないのだろう。

 この取材を実施した時点で、すでに県との話し合いは3カ月を超えていたが、解決のメドは立っていない。果たしてソフトランディングはできるのか、今後の成り行きが注目される。

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