新卒採用の適性検査、やっている意味はありますか?(1/2 ページ)

» 2010年12月07日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 SPIに代表される適性検査は、特に新卒採用では定番になっています。算数や数学のような問題と、国語のような問題で能力的な側面を判定するもの、さまざまな言葉や短文に対する反応・感じ方を選ばせて、性格や情緒、意欲や行動特性などを診断するものなどがあって、これを通してその会社や職務に対する適性を見極めようというのがもともとの趣旨です。

 しかし、実際の採用場面での適性検査の使われ方を見ると、その趣旨からほど遠く使われていて、何のために実施しているのか、その位置付けにはやや首をかしげたくなることもあります。もちろん私も昔やっていたので、その無目的さを振り返って反省した上で……。

 「実際には学校名や男女といった属性で選考しているが、そうは言えないので適性検査の結果を落とす理由にしている」「昔から役員面接の必須資料となっていて、(使わないのだけれども)添付しなければならないから」「何を判断するために使うという目的は特にないが、面接だけで決めるのは何となく不安だから」「(学力の最低ラインを決めている、情緒的側面のこの部分は重視しているなど)結果のごく一部だけを、選考の材料にしている」……。

 こんな会社が圧倒的で、適性検査でアウトプットされる情報を読みこなし、面接とリンクさせながら採用に効果的に使えている会社は、ほんの一握りです。「能力検査の問題は、できるだけ難しい方がいい。理由は、難しいとみんな『落ちたかも』と思うから結果が連絡しやすい」という声さえもあります。

 これらは、受けさせられる学生から見ると、適性検査にかかる時間も相当なものなので、とんでもない話なのですが、一方的に企業側を責めるわけにもいきません。適性検査というのはどんな会社にでも使えるように網羅的に作られているわけですが(そうじゃないともうからないので)、大事にしたいポイントや必要とされる能力やタイプ、採用基準や人物像は会社によって異なるので、適性検査でアウトプットされる情報がすべて貴重であるということはありえません。

 また、心理学や統計学の専門家の知恵の結集であることはすばらしいのですが、それゆえか普通の人には表現が難しく、日常的に人を表す言葉とは異なり、面接での質問に応用できる感じがしません。さらに、その情報量の多さは人事担当者が1人1人の適性検査の結果をしっかり読もうという気をなくさせる、というより、その気があっても時間的に無理があるのが実際なのです。

 こう見ると、有効に使いたいけど使いこなせない(または使う気はないけど実施している)人事と、大して意味もないのに受けさせられている学生という構図で、結構不幸な状態なのだと思わざるをえませんが、では、適性検査というのは採用や人事管理上どの程度重要なものなのかと考えます。

 例えば、能力検査で高いスコアだった学生が、本当に能力が高かったか。意欲が高く行動的であると判定された学生は、入社後実際にそのような働きぶりであったか。ストレス耐性が弱いと出た学生が、入社後メンタルヘルス不全を起こしたか。このような関連を明確に見出した会社があったら、ぜひお目にかかりたいと思うほど、適性検査とその後の状況の関係は不透明です。私の経験で言うなら、能力検査で高いスコアだった学生は、学習塾や家庭教師のバイトをしていたり、教員養成系の学部だったりすることが多かったわけで、「そりゃ、そうなるだろうな」といつも思っていました。

 適性検査によって、面接で分からないことが分かる可能性があるかもしれません。が、それと入社後の実態との関連が非常に曖昧(あいまい)です。少なくとも、採用選考の時点で検査結果に表れた要素が、入社後の職場や上司や仕事や顧客によって変わってしまう(良く現れたり悪く現れたりする)のは明らかです。

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