「芸能人を殴った男を確保」……なぜ“誤報”が流れたのか相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年12月09日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
(写真と本文は関係ありません)

 裁判であれば、無罪、有罪の双方の記事を書いておき、実際に裁判を傍聴して、有罪、無罪の原稿を選び、裁判長や法廷で得た新たな事実を付け加えてデスクに送稿、という手はずになる。

 このほかにも、スポーツ、芸能、財界、政界の面々の「訃報予定稿」も各大手メディアには用意されている。高齢の各界著名人をリストアップし、大記録や功績を事前に原稿化しておく。いざ当人が亡くなった際は、死亡日時、死因、享年などの追加情報を入れて出稿する。

 先に触れたスポーツ紙にしても、芸能人のトラブルを巡る警視庁の動きは第一級のニュース素材だ。現場班の連絡が入り次第、紙面に記事を反映させるべく予定稿を組んでいたのは想像に難くない。

 繰り返しになるが、マスコミという業界で働く以上、予定稿は必要不可欠な存在なのだ。いざ事が起こってからでは他社に遅れを取ってしまう。混乱する取材現場で慌てた挙げ句、間違った情報を発信する恐れさえあるためだ。

予定稿は増え続ける

 2010年5月、筆者は当コラムで大手マスコミが速報体制を強化していることに触れた(関連記事)。長引く不況下、人員削減が進む大手各社の報道現場は、人繰りが苦しい。そうした環境下、通常の記事に加えて速報の充実までも求められているのだ。先週の当欄でも触れたが、こうした状況にTwitterやYouTubeなど新興のネット媒体の台頭という要素が加わっている(関連記事)

 通常の取材や記事を作る作業が持久走だとすれば、多くの記者は並行して短距離走や障害物競走まで強いられている。当然、予定稿を事前に積み上げておかねば、通常の取材活動さえもこなし切れない。予定稿を流出させてしまった某スポーツ紙の内情は知り得ないが、「警視庁の発表後、あるいは身柄確保のウラが取れた際、即座に原稿を掲載可能な状態にしておく」必要があったのは明白だ。

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