西川産業の若き社長は、創業444年の老舗をどう率いているのか嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(4/5 ページ)

» 2010年12月17日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

老舗企業としての不変の対象は?

 西川産業は、444年の歴史を持つ老舗だが、同社において何があっても決して変えてはいけないもの(=不変の対象)とは何なのだろうか?

 「江戸時代以来受け継がれてきた誠実、親切、共栄、そしてそれに基づく商品の価値観や品質、信頼感は、何があっても決して変えてはいけないと考えています。

 そして、もう1つ挙げるならば、弊社にとっての“メタ・コンピタンス”と言っていい歴代のオーナーの哲学です。それは『売れさえすれば良い』という発想の逆を行く、『短期の変動に惑わされない力』『人々に使っていただいて幸せになっていただくことへの思いの力』です」

 100年、200年、あるいは1000年も続く老舗の当主のお話をうかがうと、必ず「自分たちは自己を取り巻く森羅万象によって生かされているのであって、そのことへの自覚と、自分を取り巻くあらゆる存在への感謝の念は、時代を超えて堅持すべきものである」と言っている(主客一如型経営)。

 「まさにその通りですね。社是に基づき、企業理念においては社会、消費者、取引先、社内との、誠実・親切を通じた共栄の実現をうたっています。そのことからも明らかなように、自分たちは、全体との調和を図りつつ、自己を取り巻くあらゆる存在によって"生かしてもらっている"ということを常に認識し、そのことへの感謝の心をカタチにして現わしてゆくことは大切です。それはまさに『不変』の対象です」。

 そうした不変の貫徹は、具体的にどのような企業行動として現れているのだろうか?

 「弊社は江戸時代以来、良いものを最後まで使い切る循環型の商売をしてきました。ですから、たとえ世の中が使い捨てを良しとする価値観であっても、それにくみしません。

 寝具は長く使うものです。途中、傷むこともあるでしょう。ですから、売りっ放しにすることなく、お客さまにはさまざまなアドバイスをさせていただきつつ、適宜、修理を施すなど、アフターフォローをしっかり行うことを大切に考えています。

 それでも、やがては使えなくなるでしょう。そうなったものは再利用します。それもダメになったら最後は焼却せざるを得ず、環境に負荷がかかることも考慮しないといけません。そういうこともあって、対象商品を1点購入していただくごとに、1本ずつ内モンゴルに植林するようにしています。年平均1万本で、すでに6万本以上を植林しました。

 もう1つ、例を挙げましょう。弊社では長年にわたって繊維産業の方々とお付き合いしていますが、そうした企業内では、寝具用に開発したものだけでなく、さまざまな事情でお蔵入りした商品も決して少なくはありません。

 そうした、かつて陽の目を見なかった商品の中から、逆に現代だからこそお客さまに喜んでいただけるようなものを再発見して、今の時代に合わせて商品化して世に出しています。そうすることによって、結果として研究開発費の回収にもつながり、資源のムダを軽減することができます」

西川産業のクール寝具シリーズ「COOL TOUCH」の抱きまくら(白くま)。このシリーズで使用されているキュプラという素材が、再発見されたものの代表だ。夏に冷房に頼らなくてもひんやり感じる素材である

西川産業にとっての革新の対象は?

 西川産業の不変の対象についてお聞きしてきたが、その一方、環境変化に即応して非連続・現状否定型で変えていかないといけないもの(=革新の対象)は何なのか?

 大局的に見ると、戦後復興以降、日本の産業社会にすっかり根付いてしまった感のある「睡眠(環境)軽視」ともとれる価値観こそ、まず変えていくべき点と思えるが。

 「睡眠の質こそが“よりステキな明日”を作ってくれるということを、まだまだお伝えしきれていないと痛感しています。そういう意味で、海外市場もさることながら、日本市場は今後まだ掘り起こしていく余地が残っていると感じます。

 そのためにも、時代とともに、環境変化に即応して、お客さまへの見せ方を変えていくことが大切だと考えています。

 例えば以前は、寝具のスペック(計数的な要素)を大事にしていて、それをお客さまに訴求する手法が取られていました。しかし今、そのようなことばかりしていても、お客さまの心にトキメキを起こすことはできません。

 先ほど申し上げたように、今は使い勝手や感触といった感性的なものが重要です。これがあれば明日ウキウキできるというような、計数的な測定ができない要素こそを大事にしないといけないのです。

 時代は、“所有価値”から“経験価値”“再発見価値”へとシフトしています。我々もその変化に対応していく必要があります」

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