西川産業の若き社長は、創業444年の老舗をどう率いているのか嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(5/5 ページ)

» 2010年12月17日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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西川八一行社長のリーダーシップの源泉

 軽視されてきた睡眠(環境)についての日本人の認識を改め、「よりステキな明日」を提供してゆくために、これからも西川産業の挑戦は続いていくだろう。そして、それを成功裏に進めるためには、同社の組織能力を遺憾なく発揮させる努力がこれまで以上に必要となるに違いない。

 老舗企業であれば、洋の東西を問わず必ず経験することであるが、経営者が代替わりした場合、先代以来のベテラン社員たちは、先代を慕い懐かしむあまり、新社長の経営革新を喜ばないケースが見出される。

 1996年に20代で取締役に就任し、2006年に30代の若さで社長に就任した西川さんは、そうした難しさをどのように克服し、リーダーシップを確立していったのだろうか。

 「社長就任前に構築した企業理念こそが、リーダーシップの拠り所になりました。若く経験の浅い段階で、今までとまったく異なる新しいことを社内でやろうとしても、説得力はありません。しかし、江戸時代以来、代々継承されてきた自社ならではの商いの精神であれば、誰もが耳を傾けざるを得ません。

 そこで私は創業以降の古文書に目を通し、西川家の家訓や哲学、各種制度を検討し、それに基づいて企業理念を構築しました。これを作ったことで、現実の経営判断に際して、創業以来の精神に照らして適正と言えるかどうかという点からの社内合意が形成できるようになりました」

 外部の人間から眺めるならば、“西川”の名を冠する人物がトップを務めるファミリー企業ということで、創業家とその関連の人々と、そうでない人々との間に壁があるのではないか、それが社内の風通しを悪くしているのではないかとの懸念も持ちやすいのだが。

 「弊社の場合、会長と私だけが“ファミリー”なので、同族会社的な派閥対立のようなものは社内に存在しません」

西川産業全体を包むダイナミズムの創出

 壁のない組織であるとしても、組織全体として躍動するためには、社員1人1人のモチベーションを高めていく必要があろう。そのための仕掛けとして何か制度化されたものはあるのだろうか?

 「まず前提として、社員1人1人が自己のミッションを明確にした自己革新型のビジネスパーソンとして日々活動できるよう、具体的に方向付けています。それが、経営理念群のうちの『求める人材像』『自律(自主・自発・自立)のための5つの法則』です。

求める人材像

1.変革力……変革の目的・意図を明確にした目標を掲げ、変革に向けて人・組織を動かす力

2.お客様志向……変化しようとするお客様の潜在的・顕在的ニーズを常に知ろうとする視点を持ち、より高い価値を提供しようとする姿勢と実行する力

3.成果思考……従来型思考、ことなかれ主義を否とし、努力と工夫と行動を通じて、高い目標を達成する力

4.協働能力……内外のパートナーと効果的に連携しながら高い成果を創出する価値を理解し、実行する力

5.ビジネス志向……多様なビジネスチャンスを適格に察知・確保し、利益の拡大につなげるセンスの力

6.市場の知識……お客さま、競合、パートナー、環境の変化を通じて市場全般に関する深い見識を持つ力

7.異文化対応能力……習慣、文化が異なる組織、地域、市場、新しいルールや手法に柔軟に対応する力


自律(自主・自発・自立)のための5つの法則」

1.自ら学ぼうとする姿勢

2.自ら情報を発信しようとする意欲

3.自らにくやしいと思う向上心

4.自ら何をなすべきか考える力

5.自らやり抜き実現させる意思


 「これらを前提にしつつ、社員のモチベーションを上げていくために、毎月、月間MVPを選出するようにしています。弊社では成果主義を採用していますが、このMVPは月ごとの売り上げの多い人を表彰する制度ではありません。

 これまでの例でいうと、半年間売り上げがなかったものの新しい販路の開拓に成功した人、命令がなくても主体的に取り組んだ人など、総じて『求める人材像』『自律(自主・自発・自立)のための5つの法則』に合致した人が選出されているのが特徴です」

 業務上の高く険しい目標にチャレンジする際に失敗は付きものだ。社員の失敗に対する対応次第で、社員のモチベーションは上がりも下がりもするが、どのように対応しているのだろうか?

 「ケアレスミスや機会主義的な行動、あるいは途中で妥協に転じた場合などはNGです。しかし、革新的なチャレンジの失敗は許容します。ただし、利益の損失は2年までです」

 経営理念群に照らして、積極的な意義が認められる失敗は許容するということなのだろう。

 「伝統は革新によってこそ生きる、革新なき伝統は伝承に過ぎない」とよく言われるが、創業以来の商いの精神を経営理念群として日々の行動のベースに据えて、業界を代表する先端企業として存続している西川産業。これから先、我々に一体どんなステキな明日を提供してくれるのだろうか? 今後の展開が楽しみである。

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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