イタリアのバイクメーカーMV AGUSTAは675ccのスーパーバイク「F3」を「Eicma 2010(ミラノショー)」で発表した。発売日や価格は未定。
ひし形のライトを持つフロントデザインをはじめ、外観はF4シリーズと似ているが、エンジンがコンパクトになり全体的にスマートな印象だ。リアは片持ちのプロアームにチタンと思われるゴールドのホイールが収まる。
F3一番の特徴は、3気筒のエンジンだろう。カウルからは、大胆にカットされた3本のマフラーエンドがのぞき、3気筒であることを主張する。F4シリーズ(750cc〜)の4気筒エンジンからシリンダーが1つ減ったことで、排気量は675ccとなりミドルクラスの位置付けとなった。
エンジンがコンパクトになったことで、ボディに軽快感が生まれただけでなく、大排気量バイクにありがちな「街中ではパワーを持て余す」こともなく、街乗りもサーキット走行も楽しめる、ちょうど良い大きさのエンジンに仕上がった。また、トラクションコントロールを装備し、パワーに振り回されてコントロール不能になることも防げるだろう。
価格は未定だが、排気量が小さくなったことで、F4シリーズ(ベーシックモデルで210万円)よりも下がることが予想される。仮に100万円台中盤の価格であれば、金銭的な理由で諦めていたファンにとっても、手が届くMV AGUSTAになりそうだ。
MV AGUSTAは、1997年にデビューした排気量750ccのF4 Serie d'Oro(セリエオロ)から始まるフルカウルのF4シリーズ、ネイキッドのBRUTALE(ブルターレ)シリーズを生産するバイクメーカーだ。生産される車両の最低排気量は750ccであり、タンブリーニデザインの華洗練されたボディには、100馬力をゆうに超えるハイスペックなエンジンが収まる。
MV AGUSTAの歴史を振り返ると、かつてはマイク・ヘイルウッド、ジャコモ・アゴスティーニらのライダーを擁し、世界GPを通算270勝以上した名門メーカーだった。市販車両では750S、ジウジアーロデザインの350Sなど、後に名車と呼ばれるバイクを何度も送りだした。しかし、1977年にオートバイの生産を中止、1997年にブランド権利を手に入れたカジバによって「バイクの宝石」とまでいわれたMV AGUSTAは復活する。
現代的なスーパーバイクを生産する新生アグスタは、その洗練された外観と甲高い独特のエンジン音からデビュー後すぐに多くのファンを取り込み、バイクメーカーとしての地位を瞬く間に取り戻した。しかし、その一方でかつてのアグスタを知る一部のエンスージアストからは、ときに「新しいアグスタは、アグスタであってアグスタでない」と評価を下されることもあり、20年に及ぶ空白の時間は未だ大きな溝を残す。
MVと3気筒の関わりは、1966年、レースシーンにデビューしたMV AGUSTA 350から始まる。時代はおりしも、6気筒のホンダRC166をはじめ、エンジンが多気筒化した時代。そんななか、MV AGUSTAが開発したマシンは4気筒ですらなく、エンジンの軽量化とハンドリング性向上を狙った3気筒マシンであった。
そして、500ccクラスで王者に君臨していたホンダの4気筒レーサーRC181を倒すべく350をボアアップさせた500ccモデルが開発され、1967年シーズンに投入された。そして、アゴスティーニのドライビングにより最終戦で遂にホンダを下し、シリーズタイトルを手にする。
MV史上、生産された3気筒は、ワークスマシンのMV AGUSTA 350/500だけであり、市販車両で3気筒エンジンを持つマシンは1台もなかった。そして、イタリアンレッドをまとう芸術的なフレームと、アンシンメトリーのエキゾーストパイプを持つMV AGUSTAの3気筒レーサーはいつしか神格化された。市販車両を3気筒レーサー風にカスタムしたマシンでGPの雰囲気を楽しむ者ばかりか(もちろんマフラーは2本か4本だが)、オリジナルの車両からネジ1本まで再生産した“新車”の3気筒まで作られた。
そんなMV AGUSTAにとって初の市販3気筒マシンとなるF3は、単にミドルクラスで乗りやすいマシンというだけでなく、本当の意味でMV AGUSTAを蘇らせる1台となるのではないだろうか。
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