あかほりさとる氏が語る、メディアミックス黎明期(1/4 ページ)

» 2010年12月30日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 複数の媒体を連動させて効果を引き出す広告手法である「メディアミックス」。エンタテインメント業界においては、1つの作品を小説や漫画、アニメなどで同時多発的に展開し、相乗効果でそれぞれの注目度を高めることを意味している。

 今でこそ当然のように行われるようになっているメディアミックスだが、かつてはそれほど積極的に行われていなかった。このメディアミックスをエンタテインメント業界でパイオニアとして手がけたのが、ライトノベル作家のあかほりさとる氏である。あかほり氏は『天空戦記シュラト』や『セイバーマリオネット』などで、アニメや小説、ラジオドラマといった多メディアでの展開に挑んだ。

 どうすればうまく相乗効果を出せるのか、という方程式がまだ定まっていなかったメディアミックス黎明期。あかほり氏はどのような動機からメディアミックスに取り組み、どのように仕掛けていったのだろうか。

※この記事は11月21日に行われたコンテンツ文化史学会2010年大会「拡大するコンテンツ」のシンポジウム「メディアミックスの歴史と展望」の一部をまとめたものです。
あかほりさとる氏

メディアミックス黎明期

あかほり 今、私はライトノベルはまったく書いていないのですが、最近のライトノベルを読んでいるとビックリしますね。「うまくて、すごくて、細かくて、物語が見事に整っているなあ」と思っていて、今の時代だったら、私は絶対ライトノベルを書こうなんて思いませんね。(競争を勝ち抜くのは)絶対無理ですから。20数年前、ライトノベルという言葉もなくて、ジュブナイルとかジュニア小説とか、ヤングアダルトとか、いろいろ言われていたころに入った時ですら自信がありませんでした。

水野良著『ロードス島戦記』

 ほかの作家の方はみんなうまかった。私とほぼ同時期に、第1巻だけで100万部以上を売り上げた『ロードス島戦記』シリーズを書いた水野良さんの作品の作り方や展開の仕方、世界観の広げ方などを見た時、「これは無理だ。勝てるわけがない」と思いました。

 でも、当時はまだ黎明期だったので、ある意味、何でもアリだったんですね。今からすると「こんなことも」ということすら行われていなかった時代だったので、「これはもしかすると、(うまくプロモーションすれば)何とかなるんじゃないかな」と思って、業界に居座ろうと思った次第です。

 私は最初、アニメ『ドラゴンボール』などの脚本を手がけた小山高生さんの弟子となりました。そして、『アイドル伝説えり子』(1989〜1990年)という作品の企画書を書きました。企画書で何を書くかというと、作品の内容を書くのではないんですね。あるプロダクションと組んで、このアイドルをこういう風にデビューさせるから、名前はこうなって、というものが決まった段階の企画書では、おもちゃの展開を書くんです。こういうおもちゃが展開できるのではないかということをメインに書いて、ストーリーやキャラクターについてはちょっとしか書かなかったんですね。

『天空戦記シュラト』

 その次にタツノコプロから「密教をテーマにした、鎧ものの企画を書いてくれないか」と頼まれて、後に『天空戦記シュラト』(アニメは1989〜1990年)という形で作品となったものの企画書を書きました。それはおもちゃメインの企画で、「どういうメディアで展開するのかな」と思っていたら、おもちゃとアニメがある以外は、講談社の月刊児童漫画誌『コミックボンボン』(2007年に休刊)で宣伝を目的とした漫画が描けないかと検討していたくらいでした。

 その状況を僕は横から見ていて、「何かもったいないな。いろんなことできるんじゃないかな」と思ったのです。当時、ライトノベルでは角川書店の角川スニーカー文庫というレーベルもあったのですが、そこには全然つてがありませんでした。ただ、ゲーム『ドラゴンクエスト』などで有名なエニックス(現スクウェア・エニックス)が出版を始めるとたまたま聞いたので、つてをたどって「『天空戦記シュラト』の小説を出しませんか?」とお話ししたんですね。

 すると、「面白そうですね。うちは『ドラゴンクエスト』のゲームブックは出しているけど、ほかは出していないからやりましょう」となりました。ただ、エニックスとしてもリスクがあるので、「天空戦記何とかというのと同時に、(人気が高くて成功が見込める)『科学忍者隊ガッチャマン』と『タイムボカン』の小説も同時に出させてくれたら乗りますよ」と言われて、3作品の小説を一度に出すことになりました。

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