前項で、評価会議は単に評価点の甘辛の調整と評価を決めるための会議というだけでなく“育成会議”という認識で臨む必要性を述べましたが、その際に大事なことは「俎上に上る被評価者を、会議に出席する評価者全員の共通の部下である」という認識と態度で臨むことです。分かりにくい言い回しになっていますが、1人の出席者から見ると、すり合わせの対象になる全員を「自分の部下だと思って、臨んでくださいよ」ということです。
これには2つの意味があるんですね。1つには、自分の部下のことだけ考えてセクショナリズムに陥ると、勝負の世界になって、お互いの足の引っ張り合い、揚げ足取りの様相をていしてくるということ。直属でないとしても、日ごろ知りうる限りの情報を駆使して、育成の観点で意見を言うことが、本人の成長のために最もありがたいことのはずだからです。
もう1つは、これは長い目で見て絶大な意味を持ってくることなのですが、配置換えを想定した時に、管理職が常に全員について理解していると、上司が入れ替わったとしてもある程度のレベルで理解した状態から関係構築を始めることができるということです。
一部前述のことと重複するのですが、評価会議の席はどうしても問題点の指摘のしあいで、自分の部下以外の対象者の評価を厳しくしていくことに注力しがちになっていきます。その空気が全体を支配していくと、チーム全体として未来に向かって前進していくムードにならない、やればやるほど憂鬱(ゆううつ)になる会議になってしまうのです。
1人1人の評価点の根拠の説明に際しては、漠然とコメントするのではなく、その評価期間における1人1人の「GOOD&MORE」を発表し共有することです。GOODとはその期間における「彼の取り組みで良かった内容、良かった取り組み姿勢などを具体的に整理すること」。MOREとは「この取り組みの『ここをこうすればさらによい結果が出たのでは』ということや『これこれこういうことができるようになっていれば、さらによかった』という点を整理すること」。これはやってみると分かりますが、「課題指摘型」に比べて絶大に組織を前進させる力が場内に湧いてくるものです。
人間の「慣れ」というものは誠に恐ろしいものです。どんなにすばらしい評価会議をしていても、回を重ね、繰り返しの段階に入ってくると徐々にマンネリ化してくることは避けられません。最も多い失敗のパターンは、マンネリによって少しずつ乱暴になっていく評価内容や、少しずつ安易になっていくお互いのコメントに気が付いていながら、修復できずに、徐々に徐々に停滞し、最悪の場合は開催されなくなってしまうというケースに陥ってしまうのです。
これを防ぐ方法は1つしかありません。粘り強く演出し、やり続けていく責任者の存在です。マングローブの顧客であるA社では、人事制度を改定し、それを導入してから8年目に入っていても、微動だにせず、誠に丁寧な評価会議を開催され、毎回毎回運営方法を改善していかれています。
これはひとえに、本部の開催責任者の方の努力のたまものです。この方の粘り強さは尋常ではありません。評価者の評価内容の説明が少しでもあいまいになってくると、導入当初の新鮮さと変わらない鋭さで質問を浴びせかけていかれます。「それは具体的にはどんな事実があったの?」「前回から今回にかけて、変化したことをもっと具体的に把握しておいてもらわないと困る」など。
いい評価会議を続けていくためには、粘り強く演出していく人事責任者の存在が必要であることの手本となる例です。粘り強さの源泉は何かというと、「この人事制度の運用の成功こそが、社員1人1人を成長させ、業績につながる行動に変えていく最大の方法なのだ」という信念と使命感なのですね。
今回は5つの観点を提示させていただきました。この機会に、自社の評価会議のあり方を再度考え直してみていただきたいと思います。(今野誠一)
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