慶雲館では2005年、創業1300年のアニバーサリー事業として新湯を掘削。しかも、それは毎分1630リットルという掘削自噴泉としてはまれに見る湯量で、その後の慶雲館の最大の強みを形成するに至っている。
この2005年という年は、2004年に長野県の白骨温泉で発覚し、全国の温泉地に波及した温泉偽装事件の余韻覚めやらぬ時期であるが、新湯掘削にこの事件は影響を及ぼしていたのだろうか?
「もちろん影響はあります。ちょうどそのころ、保有していた5本の自然湧出の源泉の湯量が少しずつですが減り始めていたんです。温泉は生き物ですから、やはりライフサイクルがあります。『1300年前から守ってきた源泉も衰退期に入り始めたかな』と感じました。今ある源泉を大切に守り続けても、やがて湯が足りなくなるのは明白でした」
当時、全国各地で発覚した温泉偽装事件の中で最も多かったのが、そうした温泉資源の枯渇によるものだった。枯渇を世間に知られれば、長年築いてきたブランドに傷がつくし、存続を危うくする可能性もある。そこで水道水を沸かして天然温泉と偽ったり、よその温泉地からタンクローリーで温泉水を運んできて、源泉かけ流しと偽ったり……。
「私にとって“源泉かけ流しの宿”“本物の温泉”というファクターは絶対に譲れないものでした。それで、こう言うと神がかりのように思われるかもしれませんが、経験と勘であたりを付けて掘削したんです。ヒットアンドペイ(成功報酬制)だと高くなるので、『出ても出なくてもいいよ』という形で安く掘りました。
最初は地下400メートル掘ったのに全然出なかった。でも、500メートル掘ったら、ようやく少しずつ出始めてきました。そして、600メートル掘ったらいっぱい出てきたんですよ。キリ良く888メートルの深さまで掘ったところでやめました」
慶雲館の存亡をかけ、1億円弱を投じて行った新湯掘削は成功した。同館は製品ライフサイクル曲線で言う“衰退期”に移行するぎりぎりのタイミングで、からくも新しいライフサイクル曲線に乗り換えることに成功したのである。それも、群を抜いた湯量という付加価値付きの曲線に。1300年前からの自然湧出泉の方は深澤さんの心配した通り、その後じわじわと湧出量を減らしているという。
「3つの風呂(露天風呂1つと内風呂2つ)で自然湧出泉と新湯のブレンドした湯を出し、5つの風呂(露天風呂3つと、部屋付き露天風呂2つ)で新湯を出していますが、自然湧出泉だけの風呂がないのは、湧出量が減ったためなんです。それでブレンドして出しているのです」
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