緑の党がここまで議席を伸ばした要因は、改めて書くまでもなく福島第1原発事故の巻き起こした反原発の潮流だった。緑の党は反原発を党の基本方針としており党員が原発問題に敏感なのは当然だが、今回は党員の垣根を越えた反原発世論に強く後押しされた。事故発生後、各地の原発を「人間の鎖」で取り囲み、この週末にはドイツ全国の反原発集会に25万人(取材者発表)の市民が参加している。
この2週間、CDUのメルケル首相もただ手をこまねいていたわけではない。14日には原発の稼働年数を2030年代半ばまで延長する計画を、昨秋決定したばかりにもかかわらず3カ月凍結すると発表した。さらに15日には国内の原発17基のうち1980年までに稼働を始めた7基の運転を3カ月間停止することも決定している。
「絶対にないと言われてきたリスクが、絶対にないとは言い切れない」ことをメルケル首相も率直に認めている。
全国ネットのテレビ局ARDが14日、市民900人余りを対象にアンケート調査をしたところ、70%がドイツの原発でも日本と同様の重大事故が起こり得ると答えた。また39%が福島第1原発から放出された放射性物質がドイツに達し、空気・水・食糧が有意に汚染される危険を感じている。
政府が発表した「原発延長計画の一時凍結」とすべての原発の安全点検実施の決定に対しては80%が支持。そして同数の80%が平均12年の延長計画に反対の立場だ。稼働年数の延長計画は環境よりエネルギー産業と原子力産業の利益を優先した結果であるとの世論が非常に根強い。
バーデン・ビュルテンベルク州知事シュテファン・マップスは「原発だけが争点となってしまった」と敗戦の弁に悔しさをにじませている。確かにたった1つの出来事で州の今後の4年を決めていいのかという疑問は残るが、そんな理屈が通じないほど市民の不安は大きかった。
脱原発を勝ち取るには市民の力しかない。これはドイツが日本に与える教訓だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング