サントリー「ハイボールサーバー」の深謀遠慮それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年04月27日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ハイボールサーバーの真の狙いとは

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 4月20日付日経MJのコラム「食を支える」に「サントリー ハイボールサーバー 5銘柄、最適な割方で」という記事が掲載された。5銘柄とは、角瓶、山崎、ザ・マッカラン・ファインオーク12年、ジャック・ダニエル、白州。それらをウイスキーとソーダを1:4、1:3、1:3.5などの最適比率で自動的に作り出すサーバーを開発したという。

 ソーダもただ者ではない。サーバーの冷却機能を高めることで、「おいしさのカギをにぎる、ウイスキーと割る炭酸の量を増し、液体に含まれる炭酸密度を従来の5.3から6.0まで高めた」(記事より)という。そして、サントリーは「6.0は現時点で最高レベル」であるとコメントしている。

 よーく冷やして、のどごしのよさを味わってもらうという手法は、考えてみればビールとよく似ている。酒好き、ウイスキー好きにとっては、熱い塊となって、のどから食道を通って胃の腑に滑り落ちるウイスキーの感触が何ともよいのだが(←書きながら禁酒中の筆者は思わず感触を思い出し悶絶している)、やっとハイボールでウイスキーに慣れた初心者にはまずはのどごしだ。

 アサヒビールの「スーパードライ エクストラコールド・バー」を覚えているだろうか。2010年5月21日に東京・銀座にオープンし、連日行列を作った店だ。人気のヒミツは、「氷点下の温度帯(−2度から0度)のアサヒスーパードライを飲める」ということ。ビール愛好家にとっては味が分からないくらいにキンキンに冷やしすぎるのはNGだ。のどごしとともに鼻腔に広がる香り(←再び悶絶)が楽しめなくなるからだ。

 しかし、アサヒの狙いは「若者のビール離れ対策」であった。ゆえに、「エクストラコールド」を開発し、少々狭すぎる店に行列を作らせ人気を醸成し、アンテナショップとしての役割を終えた同店を閉めてから、専用サーバーを各料飲店に広めていったのだ。現在では「エクストラコールド」を楽しめる店は順次増えている。

 サントリーの場合、超高性能サーバーの展開は、「サントリーがハイボールに合うフードメニューや店舗デザインの企画、従業員の教育まで」(同)請け負った店だという。そして、サントリーはその店舗から、「フランチャイズチェーン(FC)と違い加盟店料やロイヤルティーなどは一切とらない」という太っ腹具合である。そのワケはとりもなおさず、目的を収益ではなく、角瓶だけでなくほかの銘柄のウイスキーを消費者に体験させ、拡販することに置いているからだろう。

 また、専用超高性能サーバーの展開は、消費者に体験を広げるためだけであれば、多数あるサントリー系列の料飲店から始めればいい。しかし、あえてそうしない点から消費者に向けた狙いだけでない側面もうかがえる。系列での展開はいわば「閉じた世界」だ。ほかの店舗で成功すれば、「ぜひ我が社の店舗にも」ということになり、大きな広がりが期待できる。

 専用超高性能サーバー設置1号店は1月に東京・新橋にオープンしていて、「売り上げは計画比で50%増のペースで推移している」というから、恐らく各社からのオファーも数多く舞い込んでいるに違いない。しかし、現在のところサーバーは手作りで大量生産はできないようだ。料飲店にとって希少性が高い存在になっていることだろう。

 ウイスキー、酒類に限らず、企業やマーケターはさまざまな仕掛けによってブームを起こすことを狙っている。しかし、問題はその後なのだ。いかにブームを一過性のものにせず、定着させるか。そして、その仕掛けたブームの裏側にある真の目的を達成するかである。サントリーの、まさに深謀遠慮とも言えるハイボールと、今回の超高性能ハイボールサーバーによる息の長い取り組みからは学ぶべきところが大きい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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