「宮城など3県警、不明者家族のDNA採取へ」(河北新報5月3日)。これは宮城のブロック紙、河北新報の記事だ。被災地の実状を知らない向きには、ピンとこないだろう。
現地では、こんな声にも接した。「遺体安置所にじいちゃんを探しに行った。それらしい遺体を見つけた。顔は目と鼻の区別さえつかず、人間の形をしていなかったが、着衣でじいちゃんだと分かった」――。「引き波で流された小学生が50キロ離れた港で見つかった。名札が縫い付けてあったので、故人を特定することができた」――。
警察庁のまとめによると、5月17日現在、いまだに9093人の行方不明者が存在する。彼らを必死で探している被災者の数もこれ以上にのぼるのだ。安置所では、検視が済んだご遺体の写真がリストになっている。訪れる人々は、変わり果てた死者の膨大な写真リストをめくり、必死の思いで肉親や友人を探す。安置所を巡る被災者の中には、高齢者も少なくない。子供も存在する。
筆者は被災地での取材中、警察官がご遺体にブルーシートをかけている場面に遭遇した。ご遺体を直視したわけではないが、あの時の光景は目に焼き付いて離れない。帰京後、何度も夢の中にブルーシートが現れ、寝付けない日が続いた。
筆者でさえ、この状態なのだ。安置所を巡る被災者の心中はいかばかりか。繰り返しになるが、心のケアの専門家を急ぎ現地に派遣しなければならない。政府にその余裕がなければ、民間企業や団体でもかまわない。いち早く被災地全体の心を救わなければ、復興の妨げになってしまう。
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1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo
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