1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo
「集落の住民が孤立」「安否確認進まず」――。大震災発生後、こんな見出しやニュースに接した読者は少なくないはずだ。石巻市の中でも牡鹿半島やその周辺地域の被害はすさまじかった。谷間の集落、そして海辺の漁村はことごとく被災した。筆者はある縁でこの半島とつながっていた。全てが津波に奪われた集落に物資を届けるため、ここを目指した。
筆者は拙著『偽計』(双葉文庫)のラストシーンで、牡鹿半島の美しい風景を描いた。何度も取材で訪れるうち、この半島と周囲の穏やかな海が織りなすパノラマのような風景に魅せられたからだ。また、半島の近海で獲れる魚介類にも心を奪われ、定期的に石巻市内の鮮魚店から取り寄せては知人に配り歩いた。だが、あの日以降、全ては一変した。
以下は、3月12日午後11時59分に受信したTwitterのダイレクトメールだ。
「私の出身は雄勝町なのですが、TVからの情報が皆無です。相場さんは、高成田さんと連絡取ることが出来ましたか? もし取れたのであれば、どんな情報でも構いませんので、ツイートして頂けませんでしょうか? お願いします」
メールの送り主は、石巻市雄勝町水浜出身の大学院生Aさんだ。Aさんは現在、岩手大学大学院に通うかたわら、盛岡の地元書店でアルバイトをしている。筆者とは、この書店を通じて知り合った。
メールに出てくる高成田さんとは、朝日新聞の前石巻支局長、高成田享氏(現・仙台大教授、東日本大震災復興構想会議メンバー)を指す。筆者の小説取材を強力にバックアップしてくださった恩人でもある。
Aさんは盛岡在住。遠く離れた土地で、水浜のことを心配していたのだ。もちろん、震災直後であり、実家と電話がつながるはずもない。
メールをもらった段階で、筆者は東京にいた。Aさん同様、水浜の様子を知る手立ては皆無だった。だが、Aさんは元記者の筆者、そして2月半ばまで石巻支局長を務めていた高成田氏にわらにもすがる思いでメールを発信した。その心中を察したときから、筆者は必ず水浜に行くと決めたのだ。
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