ユッケだけではない、食のプロが警鐘を鳴らす生食の危険性――樂旬堂坐唯杏、武内剋己さんあなたの隣のプロフェッショナル(3/4 ページ)

» 2011年06月03日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

プロが教える「この料理やこの食材には気をつけろ!」

 基本的に、生肉料理はすべて危険ということだが、武内さんのこれまでの経験から現代日本の飲食店で特に食中毒の危険性が高いと思われる代表的な料理は何なのだろうか。

 「日本料理屋や居酒屋の定番料理とも言える鶏わさ、鶏の刺身、鶏のたたきなどは、カンピロバクター属菌が付着している可能性があり、感染したらギラン・バレー症候群※を発症する危険があります。また、多くの焼鳥店では、鶏レバーをほとんど生で提供し、それをウリにしていますが、同様に危険です。

※ギラン・バレー症候群……急性・多発性の根神経炎の1つで、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる。

 牛刺しは、このカンピロバクター属菌や現在問題になっている病原性大腸菌などが付着している危険性があります。多くのホルモン店で出されている生のレバーも、当然危険です。

 それから、豚・猪・鹿などの生肉には肝炎ウイルスが、精力剤として人気が高いスッポンの生血には、寄生虫の危険性があります」

 蛇足ながら、洋食の分野で人気の高い、表面を焼いただけの血のしたたるビーフステーキはもとより、ハンバーグの生焼きが非常に危険であることは言うまでもないだろう。

原因食品別食中毒発生状況(出典:厚生労働省)

 今回の事件では生肉だけが槍玉にあがってしまったが、魚の危険性についてはどうなのだろうか。

 「生の魚は、種類によらず腸炎ビブリオに感染する危険があります。魚の中でも特に川魚の生は非常に危険ですね。また、牡蠣は生食が人気で、実際美味ですが、ノロウイルスに感染する危険があります」

 今回、武内さんにご教示いただいたのは、代表的な例のごく一部に過ぎない。食べればおいしいと分かっている料理や食材であっても、それを生で食べるということに関しては、それほどまでにリスクがあるということである。

 武内さんの場合は仕事柄、保健所に頻繁に出かけて情報収集に努めてきたようだが、一般の生活者にそこまで求めるのは現実的ではない。実際、ユッケ集団食中毒事件後、「そんなことを言っていたら、結局、何も食べられなくなる」と言って、従来通りの生食を繰り返す人々は少なくないし、そうした風潮に呼応するかのように飲食店側でも生肉料理を出し続けているところがある。今後、できるだけ危険を避けたいと願う生活者としては、どう対応したらよいのだろうか? 

危ない店や食べ物から身を守る方法

 自分の身を自分で守るための飲食店選びの方法と、スーパーなど食料品店での買い物の方法について武内さんはこう語る。

 「まず大前提として、生の肉は危険であるという認識に立って、飲食店に行っても肉の生食はしないという姿勢が大切です。そして、それを効果的に実現するためには、事前にWebサイトなどでその店のメニューを確認し、生肉料理を出していない良心的な店を選ぶことが重要です。というのも、せっかく火の通った料理を注文しても、その飲食店のメニューの中に生肉料理があれば、まな板を通じて、細菌に汚染される可能性が高いからです。さらに言えば、しぶきが飛んでいたりします。

 でも、どんなに危険と分かっていても、『好物なので、どうしても生食したい』という人もいることでしょう。おいしいですからね(笑)。そういう人の場合は、いつかは必ず食中毒になるという覚悟をもって臨むこと。そして、その際、抵抗力のない子ども・お年寄り・体の弱い人などを、そうした危険に巻き込まないよう配慮することが必要だと思います。

 店選びという点に関しては、プロフェッショナルな料理人がきちんと『仕事』をしている店を選ぶことは絶対に必要でしょうね。知識のないアルバイトなどがマニュアル通りにやっているだけのところは非常に危ないですから。

 スーパーなど食料品店での買い物の仕方に関しては、例えば刺身の場合、できるだけかたまりの状態のものを買ってきて、自宅で切るのが良いと思います。食料品店で、いろいろと人の手が加われば加わるほど細菌の付着や増殖のリスクが高まるからです。冷凍物だと、解凍前のものを買ってきて、自宅で冷蔵解凍するのが良いです。自然解凍だとその間に細菌が増殖する可能性があります。また、野菜に関しては、もやし・カイワレ・キュウリなどは大腸菌が多く付着していますから、よくよく洗ってから食べるようにした方が良いですね」

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