ユッケだけではない、食のプロが警鐘を鳴らす生食の危険性――樂旬堂坐唯杏、武内剋己さんあなたの隣のプロフェッショナル(2/4 ページ)

» 2011年06月03日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

隠された真実

 「今回の事件では、あたかもユッケだけが悪いみたいに言われていますし、それどころか、『事件を起こした焼肉酒家えびす屋と卸業者の大和屋商店だけの責任』という風に問題を矮小化してしまう論調すら見られます。

 その証拠にと言うべきか、ユッケの販売を自粛するだけで事足れりとし、ほかの生肉料理に関しては平然と出し続ける飲食店も多いですし、『うちではちゃんとトリミングをしていますから』と安心・安全を強調してユッケを出し続ける飲食店だってあります」

 ということは、生肉料理はすべて、ユッケ同様に食中毒の危険をはらんでいるということか?

 「もちろんです。そういう意味で、ユッケ食中毒事件に関連したマスコミの報道の在り方には問題があります。そもそも生食できる肉なんて存在しないのだというところから入るべきなのに、それをしていない。焼肉酒家えびす屋と大和屋商店を悪者にして叩きたいだけのように見えます。

 そもそも、トリミングしたから安全などということはありません。表面に付着した菌は中に入っていくと考えるべきだと私は考えています。ですから、生肉は本来、飲食店で出すべきではないし、お客さまも食べるべきではないのです。それでも、どうしても食べたいということであれば、肉の種類によらず、いつかは必ずあたるという覚悟を持って食べることが必要なんですよ」

 事件発覚後、どの段階で病原性の細菌が付着したかをめぐる議論があったが、生産者→加工業者→卸業者→飲食店という流れの中で、どこにどういう危険が存在するのだろうか?

 「例えば、大腸菌などは牛や豚が生きている時から腸管内に存在しています。そのため、食中毒予防の3原則『菌を付けない』『菌を増やさない』『菌を殺す』の中の、最初の『菌を付けない』というのが、そもそも無理なんです。

 体内に大量に存在している細菌ですから、加工業者の解体・加工プロセスで付着してしまう可能性をゼロにするのは難しいのです。そしていったん付着したが最後、その業者の扱う肉全部が汚染されることになります。卸業者も同様で、肉を小分けする時に菌が付着する可能性は少なくないですし、いったん付着したら汚染が広がります。

 加工・卸段階でのこうした回避困難なリスクを踏まえて、飲食店は生肉をメニューに入れるようなマネは避けるべきですし、どうしても出したいなら、そのリスクをお客さまに知らせた上で出すべきなんです」

 ということは、肉の生食全般に付随するリスクについての報道を行わないメディアと、そうしたリスクについての情報開示を怠ったまま、あるいは隠蔽して、平然と生肉料理を出している多くの飲食店の姿勢とが、事件の背景にあるということだろうか?

「私はそう思います」

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