何が改革を妨げるのか?――現役官僚が語る、官僚や東京電力の問題(4/5 ページ)

» 2011年06月22日 12時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

東京電力だけを悪者にしていいのか

――今後の電力会社の責任の取り方などについて、どのように考えていますか。

古賀 今の原発の状況がある程度収束するということを前提に、事故についての調査委員会も立ち上がっているので、恐らくここがいろんなことを調べていくと思います。その調査結果に応じてさまざまな責任追及がされると思います。

 ただ、今、私が何となく感じているのは「東京電力をとにかく悪者にしてしまえ」という動きが非常に強くなっていて、東京電力、特に経営陣を悪者にすることによって、それ以外のところの責任をあいまいにしたまま、経済的に国民の負担を求めるという方向に行って、それで一件落着としようとしているのではないかと思いますが、それは許されないことです。刑事的な責任もそうですが、行政的な責任や政治的な責任も含めて、単に「東電けしからん」という感情的なバッシングで終わるのではなく、そこに関わった人それぞれの責任について客観的に評価して、しかるべき処分をしないといけないと思います。

 それから、今、原発事故の賠償問題や、将来の電力市場をどうすべきかという話は経済産業省中心で行っているんですね。今の経済産業省の幹部は、基本的に自分たちがやったことをディフェンドしたいというインセンティブを持った人たち、あるいは自分たちの今までの利益構造を守りたいと考えている人たちなので、そういう仕事をやらせるのは非常に不適切だと思っています。

 従って、経済産業省や原子力安全・保安院の幹部を1回入れ替えた上で、これからのことを考えていく仕組みにしないといけないと思いますし、経済産業省中心ではなく、やはり官邸中心で進めることにしないといけないと思います。

福島第一原子力発電所3号機(出典:東京電力)

――具体的にはどのようにすればいいのでしょうか。

古賀 例えば、事故原因を検証するのに今、首相が任命した委員会が調査を行っているのですが、そういったことはむしろ国会が任命した独立の機関が行う方が多分正しいと思います。なぜなら、政府全体の責任を問う話なので、政府が任命した委員会では本来的にはできないことだと思うからです。

 また、賠償も法律的には文部科学省の問題なのですが、実際は経済産業省の人が内閣に出向してやっています。人を全部入れ替えることが物理的に可能かというのもありますが、少なくとも全体を指揮する組織は、これだけ大きな問題なので国会が何らかの形で任命するような独立的な機関というのがもしできれば、その方が望ましいと思います。

――今までの日本の電力業界は政官財が共生して作り上げてきたと思うのですが、今後もその選択肢でいくことはできないのでしょうか。

古賀 非常に難しい質問だと思います。これは電力業界だけでなくて日本の経済全体についての非常に大きな質問になっているのだろうと思いますが、共生という言葉の定義にもよりますが、共生というのは非常にいい仕組みだと思うんですね。それぞれの善意を信じて、信頼関係を基礎において、みんなが協力して働くことで、緊張関係だと生じるはずのさまざまな取引コストをなくして、前向きの成果が得られるという意味で非常にいい仕組みだと思います。

 多分その仕組みで今まで成功してきたのですが、逆にそれによる弊害も生まれますよね。競争が非常に少ないとか、そこに最初から入っていた人は利益を享受できますが、外から入ろうとするとなかなか入りにくいというデメリットもあって、今、どちらかというとメリットよりデメリットの方が大きくなっていて、今までの仕組みを変えなくてはいけないというポイントにきているのではないかと思います。

――『日本中枢の崩壊』で提唱されている東京電力処理策についての政治家の反応はいかがですか。また、東京電力処理策について、『週刊エコノミスト』に投稿される予定はありますか。

古賀 まず2つめの『週刊エコノミスト』に出す予定はあるかということですが、もう本にして出しているので、特にそういう予定はありません。それから参考までに申し上げますが、もう少し詳しくて新しいものが現代ビジネスで出ているので(「現職経産官僚が緊急提言 古賀茂明『東電破綻処理と日本の電力産業の再生のシナリオ』」)、それを参照していただければと思います。

 政治家の反応ですが、「すばらしい」とわざわざ私にいろいろ言ってきてくれる政治家は結構います。みんなの党では渡辺喜美さんや江田憲司さんたちは私も直接お話をしていて、サポートしてくれています。自民党だと河野太郎さんは直接お話ししていますし、それから塩崎恭久さんや柴山昌彦さん、平将明さん、小泉進次郎さんともお話ししたのですが、非常に好意的な反応をいただいていて、そういう方々は今、私のアイデアも取り入れて、自分たちの案を作ろうという動きをしています。私は来週その会議に招かれることになっています。

 民主党はちょっとまだ私がここで名前を挙げていいかどうかという判断ができないので、差し控えますが、若手の中では非常にいいということでコンタクトをとってこられる方もいらっしゃるということを言うだけで、お許しいただければと思います。また、今の閣僚たちでも私が直接会ってお話はしていませんが、私のペーパーの方がいいと言っているという話は間接的にかなりうかがっています。

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