DVDだけではないビジネスを模索したい――フジ・ノイタミナプロデューサーが語るアニメの今(3/6 ページ)

» 2011年07月20日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

アニメ業界は圧倒的に“行政”が少ない

サンキュータツオ 山本さんはもともとフジテレビの著作権部にいたのですが、アニメ作りをまったく知らないところからアニメ業界で仕事をするようになったわけじゃないですか。そういう人からはアニメ業界ってどう見えているんですか。

山本 そこは掘るといろいろあります。フジテレビを辞めようかと思ったことも何度かあって、でも辞めずにきているのは、もちろん待遇がいいとかもあるのかもですが、「今、フジテレビの看板でやれていること以上の座組みを組むのに多分もっと膨大な時間を要する。看板があって組めるビジネスがある」と思っているからだと思います。

 「中間を抜く」というような話もよくありますが、昔はそうだったと思います。昔は広告代理店や元請けの制作会社が抜いていたりとかあったのですが、今は違います。アニメ業界はフリーの集合体で制作するシステムがある意味効率的にできているので、(制作側の力が)実写より少し強いわけですよ。実写はこの不況で映画会社も倒れているくらいですから、テレビ局さまさまみたいなことをやらないとやっていけないわけです。でも、アニメ業界はテレビ局がどうであれ、多分やっていけるんじゃないですか。

 実写は今、ドラマも映画も本当に悲惨ですからね。洋画はもっと悲惨ですから。とても乖離はしているのですが、「テレビ局主導で年間何十本バラエティを作っているシステムと、アニメの制作システムと、どちらがハリウッドシステムに近いか」というと多分アニメの方なんですよ。でも、そこで起きているいろんな格差や問題はなかなか改善されないですね。

サンキュータツオ バラエティやドラマの場合、もうちょっと番組を作る上でのヒエラルキーがはっきりしていて、テレビ局が一番上で、その下に制作会社、その下に芸能事務所や音楽事務所というのがあると思います。アニメの場合はもうちょっと制作会社主導だったりとか、テレビで流さなくても商売する方法とかがあるということなんでしょうか。

山本 そうですね。もちろんいろんなアニメがあるので、「これをやりたくてやっているわけじゃないのに」というものもあると思いますが、多分アニメの方がクリエイティブなんです。なぜそう思うかというと、全体として“行政”が圧倒的に少ないんですよ。

サンキュータツオ “行政”というのは、芸能事務所などとテレビ局とのパワーバランスで、「じゃあこの人を入れる代わりに、この人も入れて」ということですね。ということは、業界としてはかなり健全だとお考えなんですか。

山本 健全だと思いますね。アニメ業界では企画が制作会社発、監督や時に絵描き発でも立てられますが、実写でそれができる制作会社はハリウッドではあっても日本ではもうほぼないですよね。

サンキュータツオ ないですよね。そう考えると、クリエイターたちがある程度辛酸をなめつつも、やろうと思ったことができるという環境は整っていると。

山本 そうですね。「(テレビ局でも)制作会社でも、もうちょっと賢く立ち回れば主導権をとれるのにな」とずっと思っていたんですよ。

 簡単に言うと、お金を100%自分たちで出すのが正解だと思うんです。それは全部自腹を切るのではなくて、自分たちを買ってくれる人を探して。

サンキュータツオ 要するに「この番組をやって一発当てたいけど、お金がないので出してくれる人募集」ということですよね。するとお金を出してくれるところの意見もちょっとは聞かないといけない。そこである程度みんなの意見も聞きつつうまく立ち回れば自分のやりたいことができるけど、不器用な人だとみんなの意見を取り入れて中途半端な作品になってしまうことも多いと。

山本 そういうのは不幸な例が多分いっぱいあると思うんですよね。うまくいっているものは作画や音響などいろんなところに神経が届いているというのも大事なポイントだと思うのですが、「ここを狙って、こういうものを目指すんだ」という企画の最初の意図がシンプルに通されているかどうかが大きいと思うんです。

 ノイタミナももちろんいろんな行政があるのですが、純然たる企画意図をまずは共有しようというのをやっているつもりではいます。ただ、僕にとってはそうなのですが、相手にとっては「それはノイタミナの事情でしょ」と言われたりするのですが。

お金を張ること自体に意義を感じるスポンサーを探したい

サンキュータツオ 今、日本経済は不況でアニメのDVDも売れていないと思うのですが、業界的にはいかがなのでしょうか。

山本 DVDが1万本売れるクラスの作品がなくなってきていますね。10万本売れている作品もあるのですがそれはごく一部、ごく一部の作品以外はまったく売れない。非常に売れる作品とそれ以外という状況になっているので、外れ前提みたいになっているんです。それはアニメ業界の人はみんな分かっていると思います。

 ただ、「DVDが1万本売れるか売れないかということが、どれだけ大事なことなんだ」という話に本質的になった時、先ほど言ったように100%お金を出してくれる人がいるような何か別の意義を作っていればいいんですよ。

 例えば最近、神山健治さんが博報堂の人と共同経営の会社(STEVE N' STEVEN)を作りました。そういうクリエイター主体の会社ができて、スタジオジブリのようにナショナルスポンサーが付きやすい構造を作ればいいんです。みんながそうはできないので、全体としていいかどうかは分からないですが、(能力的に)上の人たちは100%お金を出すという意識で作れるようになるのがいいと思います。

サンキュータツオ (『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督が代表を務める)スタジオカラーみたいなものですか。100%自分たちが作りたいものを作って、売れたら全部自分たちのところにバック、責任も全部自己責任。ただ、それはみんなができるわけではないと。

『魔女の宅急便』

山本 例えば、ハウス食品が『ハウルの動く城』(2004年)のスポンサーになっていますが、ハウス食品はお金を出した時点でOKで、ビデオの売り上げや興行収入は別にいいんです。まあ、大こけしたり、何か変なケチが付いたらまずいですが。『魔女の宅急便』(1989年)でのヤマト運輸のように、宮崎駿ブランドのアニメのスポンサーをするという時点でOKなわけです。

 そういう人たちを見つける仕組みを作らないといけなくて、僕がテレビでアニメを続けている理由はそれなんですね。今この瞬間は、DVDが3万本売れるタイトルを目指して、結果5000本でしたみたいなことを続けざるを得ない現実はあります。しかしいずれは、個別のセールスとは別のビジネスとして、ノイタミナにお金を張っていることに意義を感じるという人がいるということをやりたいと思っています。

サンキュータツオ そこでノイタミナのブランド化という話になってくると思うのですが、まずこの枠を作ろうとした発端を教えてください。

山本 発端時はこんなことは全然考えていませんでした。個別の企画をいくつかやりたくて、やっていたという形でした。

 ノイタミナはもう7年やっているので、弱点が分かっています。簡単に言うと、視聴率をとっても、ビデオが売れないということです。「それでいい」と言ってくれる人たちで最初はやっていたのですが、「それじゃまずいよね」という時代になってきています。

サンキュータツオ 何でそうなったんですか。

山本 やっぱり経済状況がきついからじゃないですか。あとは、ノイタミナが視聴率を5〜6%とっていた時代と変わっていて、ベースの視聴率が絶対的に減っているんです。月9ドラマが10%を超えてホッとしているくらいの時代ですから。

 依然として20%を超える番組もありますが、ワールドカップのようなイベント、誰もが見たら手を止めてしまうようなゆるいバラエティ、やるなら絶対見ようという『人志松本のすべらない話』のような、いくつかの方向に偏っていると思うんですね。テレビが大分変わってきているんです。

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