DVDだけではないビジネスを模索したい――フジ・ノイタミナプロデューサーが語るアニメの今(5/6 ページ)

» 2011年07月20日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

アニメを見る可能性のある分母は増えている

 山本幸治氏とサンキュータツオ氏が対談を終えた後は質疑応答に移行。テレビアニメーション業界セミナーとあって、業界関係者も含めた参加者からさまざまな質問が投げかけられた。

――ノイタミナのブランド力を広げたいという話がありましたが、テレビでやらずに劇場版アニメを公開するという選択肢も今後ありえるのでしょうか。

サンキュータツオ 「ノイタミナで『空の境界』(2007〜2009年)※をやるか」ということですが。

※奈須きのこ氏による長編伝奇小説のアニメ化。全7部をそれぞれ劇場単独で公開したにも関わらず、DVDやBlu-ray Discが各巻数万本のセールスを記録した。

山本 テレビと劇場の連動はあると思います。劇場単独は、スタジオジブリのように「劇場アニメをやれば必ず客が来る」というくらいまで、ノイタミナにブランド力が付く時まで正直そんなに勝算はないと思っています。

 『空の境界』は「コアなお客が必ず見に来る」ということを当てにしています。ノイタミナにはそこまでのコアな求心力は今ないと思っているので、劇場単発は無理ですね。やるとしたら、作品によったものですね。“ノイタミナの劇場化”ということではなく、“作品の劇場化”ということです。

――編成はどのように決めているのでしょうか。この作品とこの作品は同じクールだと合わないなといったことを考えて決めているのでしょうか。

山本 自分が企画を決める事務局的なポジションになってからは、かなり意識しています。「オリジナル1本と原作もの1本を組み合わせるより、オリジナル2本の方がインパクトあるだろう」とか「オリジナルと原作ものを合わせると、もやっとするかな」とか、その辺はすごく意識しています。

 でも、現実はクリエイターベースで、「この人とやる」みたいなのを並べていった時に玉突きで時期がずれたりもするので、思ったようにはいっていないですけどね。

――ノイタミナの原作は小説や漫画が多いですが、ゲーム業界とのコラボは考えられますか。

山本 かつてテレビ業界に優秀な人たちが集まっている時代があって、その後はゲーム業界だったんですね。優秀な人がいっぱいいてビジネスもしっかりしているし、絶対組みたいと思っています。

 ただ、『ペルソナ』(2008年)や『テイルズ オブ ジ アビス』(2008〜2009年)がそうなのですが、人気になったゲームのアニメ化は、僕らはあまりやる気はないです。なぜかというと、その上振れ度がゲームで先に見えてしまっているからです。

 同発的なものはやりたいと思っています。全部こけるかもしれないですが、今、いくつか仕込もうとしています。でも、難しいんです。時間軸が違うし、向こうの予算が大きいので。

サンキュータツオ ゲームの方が大きいので、発言力も向こうの方が重くなると。

山本 正直、彼らはアニメを宣伝と考えてしまうんですよ。「何かアニメやってくれればいいよ」となってしまうので。失敗しなければいいのですが、それだと今のオタク層は納得しないので、それなりに温度の高いものをやらないといけない。ただ、そこはできるならやりたいですね。

――制作会社の収益構造なのですが、一般のテレビ局で放送するのと、独立U局で放送するのとで、どのように異なってくるのでしょうか。

山本 制作会社は受注益があるので、赤字で作らなければ受注した時点で利益は出ています。

 先ほど僕が言った、ビデオを売らないといけないスキームというのは、ビデオメーカーがある意味、セットでスポンサーになることを強いられているんですね。(制作費+スポンサー費分の)ビデオが売れないと赤字になってしまうということです。独立U局の方がスポンサー費は圧倒的に安いですね。

 「スポンサーを強いられている」と言うと良くないですが、本編放送中に「DVD発売」というCMが出ることは普通に大事じゃないですか。再放送でDVDが売れるというのも、よっぽど息の長い作品でないと、今のアニメオタクカルチャー的にはありません。そこで、いつDVDの情報を出すかとか、第1話からCMを出していいのかとか、みんなその辺は気を付けてやっていますね。DVDを売るスキームでの合理性だけで言うと、独立U局の方が効率的であると言えます。

――制作会社自体は赤字にはならないと考えていいのでしょうか。

山本 (製作委員会に)出資している場合もあると思いますし、すごく赤字でも「印税で取りかえすんだ」ということでやっている時もあると思います。ただ、制作会社は基本、受注益があると思うので、赤字ではないと思います。ただ、ビデオが売れない作品を作ってしまうと、次の仕事が来ないということはあるかもしれないですね

――『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』では西武鉄道とタイアップしていたり、ほかにもufotableが徳島県でマチアソビのようなイベントを行っていたりします。ノイタミナを一般層に浸透させるために、そうした町おこしのようなものに積極的に関わっていくお考えはあります。

サンキュータツオ 『花咲くいろは』※を作るかどうかということだと思いますが。

※石川県の温泉旅館を舞台にしたアニメで、湯涌温泉観光協会などが取材協力をしており、地域おこしという一面も持っている。

山本 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』はノイタミナとしての仕掛けというより、脚本の岡田麿里さんの仕掛けだと思います。ただ、一般層に拡大するための施策は最近特に意識していて、渋谷パルコでやっているノイタミナショップもそうです。

 売り上げでいうとウハウハとかでは全然ないんです。今、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で混んでいますが、何せ単価が安いので、1〜2クールのアニメの制作費を回収するには到底及びません。しかし、そこでの広がりや話題性のようなところを、とても意識していますね。

サンキュータツオ アニメを1クール作るのにいくらくらいかかるんですか。

山本 1話1500万円くらいだから、1クールで2億円くらいじゃないですか。2クールだと倍になって、ちょっと安くなるくらいですかね。

サンキュータツオ さっき言っていたスポンサー費は、フジテレビと独立U局とでどのくらい違うんですか?

山本 制作費は1社で持っているわけではないのですが、ビデオメーカーが一番大きなリスクを負っているんですね。例えば、2億円の制作費のうちの半分を出して、枠によりますが、それに近いくらいのスポンサー費も払っている時もあると思います。独立U局だとスポンサー費はその10分の1くらいになります、これかなり今適当に言いましたよ(笑)。5分の1くらいかもしれない。

サンキュータツオ アニメ好きの人と一般の人という分け方についてはどう思いますか。

山本 アニメ好きが一般化しているとは思うんです。『アメトーーク!』でもジョジョ(『ジョジョの奇妙な冒険』)芸人とか取り上げられるくらいに一般化しているし、昔の『電車男』的なところにはもういないと思います。

 痛みに対する反応、いわゆるリア充に対する反応みたいなことを言うと、景気が悪くて、雇用も安定しないので、いろんな意味でオタク化が進んでいるというか。

サンキュータツオ アニメを見ようとする分母は潜在的に増えていると。

山本 僕ですらドラマとかには感情移入できないわけですよ、よっぽどの何かがないと。「この子かわいいな」とか別の着眼点で見ることはありますけど、ドラマの方がリアルなはずなのにすごい絵空事になっているんです。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』なんかはドラマっぽいとも言えますが、アニメカルチャーの人たちにとってすごいリアルだったということではないでしょうか。

サンキュータツオ 昔ほどオタク層と一般層という枠組みがなくなって、グレーなところが増えたということでは「まだ新しく仕掛けがいのあるマーケット」と考えているんですね。

――秋葉原ではなく渋谷パルコにノイタミナショップを出したのは、一般層に受けることを意図したからなのですか。

山本 最初は吉祥寺パルコでやっていたんですね。その時も向こうの提案だったんです。「秋葉原じゃないと思うので、吉祥寺からやってみませんか」と。そして、期間限定で渋谷パルコで『四畳半神話大系』(2010年)や『海月姫』(2010年)をやったら好評だったので、渋谷に移ったというリアルな経緯もあります。

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 1つ1つの仕掛けの話をしていくと、「やっぱり秋葉原の方がいいよね」という話になったりするわけです。秋葉原が全部オタク層で染まっているわけではないし、隣の駅も秋葉原であるわけではないですし。

 ショップに限らず、企画のデザインということで一番意識しているのは、オタク層にも受けるんだけど、上振れした時に一般層が見やすいもの、それを追いかけています。『魔法少女まどか☆マギカ』はものすごく驚いて面白くて、DVD販売という意味では上振れしているのですが、そこから先の爆発的な何かというのになりにくいのかなと思ってやっているのです。

 『新世紀エヴァンゲリオン』とかはそこからさらに広がったのですが、1〜2クールのテレビシリーズだともう少し一般性のあるキャラクターデザインであった方がいいかなということに一番悩んでやっていますね。

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