経済ニュースが、分かりにくい理由相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年08月25日 08時01分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 「史上初の米国債格下げ」「払拭できぬ欧州財政危機」――。

 ここ数カ月間、主要紙とテレビで経済関係の大見出しが躍っている。海外金融事情の混乱により、日本では円高が進み、株価も不安定な値動きを強いられている。しかし、FXや株式投資を手掛けていない向きには、いまひとつピンとこなかったのではないだろうか。

 通信社で経済記者を務めた筆者にとって、昨今の金融情勢は史上最大の危機に映るが、家族や周囲の友人たちの反応はいまひとつ。その原因には、主要メディアが伝える経済記事に、ある致命的な欠陥があるからなのだ。

継続報道

 結論から言おう。

 致命的な欠陥とは、「継続的な報道」にある。主要紙や在京テレビ局の発信するニュースは、「読者(視聴者)が継続的にニュースと接している」ことを大前提に据えている。

 換言すれば、突発なテロや事件事故でない限り、「米国債の格下げ」や「欧州諸国の財政危機」に関する情報について、事前に読者や視聴者がニュースの背景をある程度知っているという約束事の上に成り立っているのだ。紙面や放送枠の関係もあり、全てを掘り下げていく余裕がない、というのがその理由だ。

 米国債の格下げを例にとってみよう。

 一連の報道は過去数十年間、米国政府が発行する債券は格下げという事態に接していないということを、大多数の読者が知っているという了解の上で成り立っている。

 詳細は後述するが、経済担当を20年近く経験した筆者、あるいは金融機関の市場取引部門の関係者たちには、米国債の格下げは相当なショックだった。しかし、筆者の周囲の反応は冷淡。例えば、外資系のビジネス界に長年身を置いてきた妻でさえ、「ふーん」のひと言で終りだった。

 新聞やテレビの「本記」に追加される用語解説である程度の知識は得られるが、しょせん一般のビジネスパーソンには「対岸の火事」にしか映らない、とまで言ったら極論だろうか。

 むろん、主要紙やテレビの一部では数カ月前から米国債に関する懸念は、ベタ記事や市況記事を通じて紹介されてきた。しかし、大多数の読者や視聴者は、米国の財政問題に関する一大事を、格下げの2〜3日前にようやく知ったはずだ。

 先週の当欄でも触れたが、経済関係のニュース、特に市況が絡んだ素材は右から左に数字が動くだけととらえられがちで、伝える側のメディアにとっても扱いにくい(関連記事)

 「円高や株安を巡る報道が紋切り型になりがちな中で、海外の債券を巡るニュースの扱いには苦労した」(某民放局ディレクター)というのが実状だ。

 では、今までのようなやり方で今後も経済関係のニュースを伝えていても良いのか。筆者は強く否、と主張したい。

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