ソーシャルゲームにおける日本型データ・ドリブンのあり方とは(前編)野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(1/3 ページ)

» 2011年09月22日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


 昨年に立ち上がり急速に成長してきたソーシャルゲーム市場だが、リリースされるゲーム数が増えて、飽和状態(レッドオーシャン化)とささやかれるようにもなってきた。

 ソーシャルゲームの良さは、数人のチームで低予算・短期間で開発できる点にある。「ヒットは水もの」と言われる中で、少ない投資で数多く打てることは、ソーシャルゲームの最大の利点である。

 しかし、成功例を見ると、「数多く打ったので当たった」という印象をあまり受けない。むしろ、継続的な改変によってゲームがだんだんと面白くなっていった印象がある。つまり、ゲームを作りっぱなしにしていないのだ。

 「数打てば当たる」という考えでは、初動がうまくいかないゲームは切り捨てて、次の開発に移ることになる。低予算であるので、これを短い期間で繰り返す。しかし、なぜ上手くいかないか十分な分析がなされぬまま、新しいものを作ることに精を出してはいないだろうか。

 むしろ、ソーシャルゲームに求められるのは、ゲームを改善してチューニングしていくPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回す組織体制と企業文化である。新しいプロジェクトに夢を託したくなるところだが、“急がば回れ”の社内体制の整備に目を向けたい。

データ・ドリブンの全体像

 ソーシャルゲームの競争はゲームコンテンツのレベルを超え、組織体制という会社全体をかけた競争になり始めている。そこで、新しい開発運営方法として“データ・ドリブン経営”が必須と言われる。

 データ・ドリブンとは、データを中心にすえた(ドリブン=駆動型)マーケティングや経営の仕方を言う。ソーシャルゲームでは、ユーザーのゲーム活動履歴をもとに、サービス中のゲームプログラムをリアルタイムで改善していくという、特有の開発運営方法とセットにして実施される。

 次図はデータ・ドリブンの全体像を示したものである。データ・ドリブンといってもさまざまな側面があり、各社によって重点の置き方が異なるが、基本となるのは大規模データ集計システムとゲーム内分析である。

データ・ドリブンの全体像(クリックで拡大)

 まず、ゲームサーバから分析用のデータをリアルタイムで抽出して集計する仕組みが必要である。ここで、ユーザーのアクセス履歴やゲーム内行動が測定される。特に、新規登録ユーザー、アクティブユーザー(AU)、課金ユーザー(PU)といった指標が、経営上最も重要な指標(KPI)とされる。これらを日次で測定して前日との比較を追っていくことが、データ・ドリブンの入り口である(「『走りながらマーケティングする』――データに支えられたソーシャルゲーム運営」)。

 ただし、システム構築さえすればよいわけではなく、システムを操作する人間側のノウハウも必要となる。どの変数を抽出するかが、その後の分析に大きく関わるからである。変数をどう定義づけ、どんな頻度で抽出するべきか。その後の分析に耐えられるように設定しなければならない。

 実践的なデータ分析は、ゲーム内分析と呼ばれる。各ゲームの開発・運営者に寄り添って、具体的なゲームの改善点を挙げるためにデータ分析を行う。例えば、初回の対戦、初回のクエストクリア、レベルアップなど、ゲーム進行上のフェーズに分けてユーザーの離脱率を見ていく。画面が煩雑で面白さがうまく伝わっていないところ、時間がかかりすぎるクエストなど、ボトルネックになるところを調べるのである。

 さらに改善点を探る方法として、大量データを統計的に処理するデータマイニングという手法が使われ、専用のソフトウエアが導入されることがある。あるいは運営現場からの定性的な発見を、改善に落としこむことも必要である。前者が機械による仮説発見ならば、後者は人間による仮説発見である。

 そのほかに、まだ一般的ではないが、ゲーム間分析とサンプリング調査についても応用例として図に加えた。ゲーム間分析は、複数のゲームを提供している場合にゲーム間での併用プレイを分析するものである。サンプリング調査は、日常的な大規模データ分析では追えない部分について、分析対象を少なくして深堀りをする分析である。

 データ分析の内容については次回で述べるが、ここで注意したいのは、解析用ソフトウエアを導入しさえすれば、データ・ドリブンが完成するわけではないことである。データ・ドリブンは図に示したような複数のパーツからなり、それらをいかに結ぶかが課題となる。データ・ドリブンとは、究極的には会社の組織作りの問題である。異なる出所の「仮説」とデータとを照らし合わせ、具体的な問題解決につなげる(PDCAサイクルを回す)ための仕組みである。

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