「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」の銚子電鉄は今どうなっているのか?嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(1/6 ページ)

» 2011年10月07日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「リーダーは眠らない」とは?

 技術革新のスピードが上がり、経済のグローバル化も進む中、日夜、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き、どんなことに注目して、事業を運営しているのでしょうか。「リーダーは眠らない」では、さまざまな企業や団体のトップに登場していただき、業界の“今”を語ってもらいます。

 インタビュアーは戦略経営に詳しい嶋田淑之氏。徹底した聞き取りを通して、リーダーの心の内に鋭く迫ります。


 2006年11月、深刻な経営危機に陥り、「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」という前代未聞のフレーズをWebサイトに掲載し、副業で製造販売している「ぬれ煎餅」の購入を広く呼びかけた銚子電気鉄道(以下、銚子電鉄)。

 2ちゃんねらーを始めとするネットユーザーの間でそれが話題となって、2週間で1万件もの注文が殺到。さらには、その動きに目をつけた旅行代理店による、(銚子電鉄に乗ることを目的とした)バスツアーが続々企画され半年足らずで10万人を集めるなど、2006年から2007年にかけて、銚子電鉄は、日本全国で大きな話題になった(参照記事:「ネットで『銚子電鉄を救え』 名物『ぬれ煎餅』に注文殺到」)。

 しかし、そうしたブームが沈静化した後は、ネット上で断片的な情報は伝えられるものの、銚子電鉄の経営がその後どういう状況になっているのか、そして今どこに向かおうとしているのかに関して、同社内部からも、まとまった情報はほとんど出てこなかったと言っていいだろう。そこでこのたび、同社社長の小川文雄さん(72歳)に語っていただくことにした。

銚子電気鉄道の小川文雄社長。ゲーム『桃太郎電鉄』とのコラボ列車の前で

鉄道の赤字をぬれ煎餅の利益で補てんし、今も黒字を出し続ける

 銚子電鉄は、関東平野の最東端に位置する漁港の町、千葉県銚子市を走る典型的なローカル線である。現在、資本金6910万円で、従業員は27人、保有車両は8両。銚子駅から外川駅まで全長6.4キロの間に10駅あり、平日の運行は基本的に1時間に2本のみ。

 1923年の創業以来、銚子市民の足として親しまれてきたが、クルマ社会への移行と、長期的に続く人口減、とりわけ定期乗車(学生・サラリーマンなどの定期券使用)比率の低下で、同社は何度も経営危機に見舞われてきた。

 特に深刻だったのが2006年。この時は、前社長が総額約1億1000万円の業務上横領で逮捕されるという事件が発生(後に有罪が確定)。ただでさえ経営環境が厳しい中で、銚子市からの補助金が停止されたほか、金融機関からの融資も凍結されてしまう。

 これによって銚子電鉄は、鉄道車両の法定検査すらできないという逼迫(ひっぱく)した資金状況に追い込まれ、冒頭の「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」という悲痛な叫びになったのである。

 そして訪れた空前の“銚電ブーム”。これにより、同社の経営は回復したかに見えたが、今、多くの人が知りたいのは、そうしたブームの後の状況だろう。

運送人員(単位:人)と運賃収入(単位:円)の推移

2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度
運送人員 65万2172 65万3901 71万3367 82万9793 78万1746 71万2255 61万7146
運賃収入 1億142万 1億250万 1億1836万 1億4779万 1億3828万 1億2336万 1億501万
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