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» 2011年10月25日 12時55分 公開

野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン:ソーシャルゲームにおける日本型データ・ドリブンのあり方とは(後編) (4/4)

[野島美保,Business Media 誠]
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数字の羅列からユーザーひとりひとりを感じる

 筆者が考える究極のデータ分析は、データの固まりからユーザーひとりひとりを意識することである。ヒットの目標として100万MAU(月間アクティブユーザー)という数字が挙げられることがあるが、この数字の裏には100万人の体験と思いがあることを忘れてはならない。

 筆者は、以前のコラム(「ソーシャルゲームユーザーは、いつ財布を開くのか――顧客満足度とマネタイズの関係」)で顧客満足度曲線について述べた。

 あるゲームを始めてから止めるまで、ユーザーの感じる満足度は平たんではないことを示すグラフである。実際に100万人の満足度曲線を描くことは現実的ではないが、理念的にはひとりひとりの満足度曲線が束となって集まった結果が、MAUという指標につながっていることを意識したい。

 例として、日次のアクティブ率(DAU)のカウントについて考えてみよう。各ユーザーのログイン時間を毎日追っていくと、顧客満足度曲線ならぬログイン時間曲線をひとりひとりに描くことができる。これを、全ユーザー分集約するとDAUとなる。まず、ログイン時間の長短は省略して、ログインの有無だけを示すデータに要約をする。そして、ある1日に“ログイン有”のユーザーが何人いるかをカウントし、全ユーザーに占める割合を計算する。KPIの変動分析では、この値が昨日と比べてどのように増減しているかをウォッチする。

 しかしながら、DAUとひと言でいっても、登録して1日目のユーザーもいれば3カ月目のユーザーもいる。ゲームに対する期待度や没入度も、時間の経過によってかなり変わるはずだが、そういう個々のユーザーの事情は一切排除される。いわば、ある時点における“輪切り”のデータなのである。

 つまり、KPIはすでに加工が施された数字なのである。そこを意識せずにKPIにさらに加工を施すような分析をしていくと、だんだんと何を分析しているのか実感が持てなくなる。それが、数字を数字としてしか見ない、サービスから離れたデータ分析という問題を生む。

 医者がCTなどの断片的な画像でもって立体的な臓器を診ることができるように、日々のKPIという輪切りのデータからユーザー全体の様子をイメージできるようになりたい。医学の素養を持った上で画像を見るように、ソーシャルゲームのサービス構造を理解した上でデータ分析にあたるべきである。

 ソーシャルゲームのサービス構造の要点は、登録からの時間経過のなかで、心理状況や行動の変化をユーザーに引き起こすことにある。最初はその気がなかったのに、いつの間にか熱中し、課金をしてまでプレイをするようになるのである。数百万人にのぼるユーザーの心理変化を推し量るサービスを実現するには、時には細部に立ち入り、時には全体を俯瞰するように、柔軟に焦点を切り替えてデータをみる力が欲しい。

ユーザー全体の様子をイメージするためのアプローチ(クリックで拡大)

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


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